一般社団法人全日本こどもの歌教育協会 編集部
取材・文:浅見聖怜奈

最優秀指導者賞インタビュー | コラム&インタビュー
中野 美由紀

中野美由紀先生は、本協会主催の「第1回全日本こどもの歌コンクール」重唱・合唱部門にて『最優秀指導者賞』をご受賞されました。現役の小学校の先生でいらっしゃるとともに合唱団でのご指導を長年務められていらっしゃいます。今回、重唱・合唱部門にて金賞を受賞した「北上ミューズコーラス隊」について、また豊富なご経験をもとにした具体的なご指導方法についてお伺いさせていただきました。

中野美由紀(なかのみゆき)

盛岡第三高校、岩手大学教育学部卒業。
小学校教師1年目に合唱クラブの担当になり児童合唱の指導を始める。
現在北上市立黒沢尻北小学校に勤務し、合唱部を担当している。全日本合唱コンクール小学校部門3大会連続金賞。NHK全国学校音楽コンクール、こども音楽コンクールでも全国大会へ出場している。北上ミューズコーラス隊には、平成14年より指導にあたっている。
令和2年岩手県教育委員長表彰受賞。令和2年度文部科学大臣優秀教職員表彰受賞。

北上ミューズコーラス隊について教えてください。

歌うことや表現をすることが大好きな小学生・中学生のメンバーが集まり、合唱のコンサート、オペレッタの定期公演を毎年開催するほか、コンサートへの出演、コンクールへの参加、老人福祉施設への訪問や各種イベント出演など、幅広く活動しています。

第1回全日本こどもの歌コンクールでの北上ミューズコーラス隊の皆さんの演奏は、互いにアイコンタクトや息遣いを確認し合い、良く聴きあってハーモニーを作り出していらっしゃったのが印象的です。指揮者なし、伴奏者なしというスタイルで「わらべ歌」を選曲された背景にはどのような思いがあったのでしょうか?

そうですね、普段のコンサートなどでは、指揮者ありで歌っているのですが、今回は人数があまり多くないこと、また中学生のメンバーだけで出場するということで、指揮がない方が、みんなのアンサンブルの良さがより出るのではないかと考えたからです。
そして、指揮者なしで息を合わせて歌うために、パフォーマンスをしながら歌える「わらべ歌」を選びました。

本当に、息を呑むほど圧巻のパフォーマンスでした。

ありがとうございます。もちろん指揮があった方が良いとの考えもあるかと思います。しかし、指揮者なしで練習することで、子どもたちが自主的に自らやろうとする気持ちを育てることができると思っています。普段の練習でも私(指揮者)が前にいても手を振らずに、手で指示を出すのではなく、体で感じ合い、息を揃えるというようなことを意識しています。

日頃の訓練と、本当に皆さんが心から音楽を楽しんでいらっしゃることがあのようなパフォーマンスに繋がるのですね。

実は、コロナ禍を経て、小学生のメンバーがとても減ってしまいました。活動すること自体がダメなのではないか、集まること、歌うことがいけないのではないか、という苦しい時期がありましたよね。
もっとたくさんの歌が大好きなお友だちに入って欲しいなという思いもあり、今回、コンクールに参加することで少しでもそういった活動場所があることを知ってもらい、興味を持ってくれるお友だちが増えたらいいなと思っています。

北上ミューズコーラス隊では、歌うこと・表現することが大好きな子どもたちが集まり、合唱やオペレッタとさまざまな活動をされていらっしゃいますが、それぞれどのようにご指導されていらっしゃるのでしょうか?

合唱は私が指揮させてもらっており、オペレッタにはオペレッタの先生がいます。私自身も、オペレッタの先生のご指導から歌の表現に生かせるところを学ばせていただいておりますし、子どもたちも例えばセリフを読んだり、その内容について考えたりすることは、歌に結びついていると感じます。

中野先生は、合唱団を中心にご指導されており、全国1位など素晴らしい結果を収めていらっしゃいます。小学生から中学生という幅広い年代をご指導されるなかで大切にされていることは何でしょう?

年齢そのものの持つ良いところは残したいなと思っています。ですから、あまり低学年に裏声を求めません。しかし、小さい頃からの音楽経験は大切だと思っています。小学校に入るまでにどのような音楽経験をしているかで、音楽への親しみやすさは変わると思います。かなり小さい段階で下地は作られると思いますので、色々な音楽の経験をした子どもは、例えば音がすぐ取れたり、リズム感があったりしますね。
低学年の頃は怒鳴って歌わないように、中学年になる頃には声の幅が広がると良いなと思います。また、音が取れないというのも少しずつ改善できるよう指導します。

音が取れないことや、声の幅を広げるための具体的なご指導内容をお聞かせいただけますか?

音が取れない。というのは、私は一本調子で歌ってしまっていることが原因だと捉えています。つまり、色々な声を出したことがないということだと思っていますので、高い声から低い声、普段話している声ではない声を出したりします。色々な声があること、色々な声を出せることを通して、その中から「いい声」や「綺麗な声」というものを自分自身で感じて、心地よい響きを体で感じて習得して歌うということは、できるだけ低学年のうちに掴ませることも大事なことだと思っています。

音感やリズム感など、少なからずあるレベルの差を埋めるためにどのような練習方法に取り組まれていらっしゃいますか?

うちの合唱団は、あまり人数が多くないので、高学年と低学年を分けて取り組むことが難しいんですね。北上ミューズコーラス隊の場合、中学生も一緒に練習しています。下の子には無理をさせずに、もちろん同じ声にはならないのですが、みんなの声が馴染むように意識しています。
小さい可愛い声から大人のような声も一緒なのが私たちの合唱団の良さだと思っています。

中野先生が現役の小学校の音楽の先生でいらっしゃることも踏まえて、音楽・歌を通して、子どもたちにどのようなことを学んでほしいか、またそれをどのように将来に活かして欲しいと考えていらっしゃいますか?

まずは、ずっと音楽が好きでいてほしいと思っています。そして、音楽に言葉が付いているのが歌ですよね。ですから歌を歌っている時にその言葉も一緒に噛み締めて、詩の中の様々な気持ちを追体験して欲しいと思います。詩の内容を想像するとしても大人と子どもでは全然違いますが、子どもたちには、大人の感覚を知るきっかけになったらと思います。
例えば「夕日」という一つの言葉をとっても様々な夕日があり、毎日の夕日の違いに気づくことができたら、心の成長につながっていくと思います。
同じ歌を歌ったとしても毎日違う発見をして欲しいですし、歌が生活の中に入っていって、それが大人になっても支えになってくれたらいいなと思っています。

指導者として、先生が子どもたちに指導する上で大切にしていること、心がけていることを教えてください。

北上ミューズコーラス隊のメンバーには、私の勤めている小学校出身の子もいるので、かなり長い時間をともにしていたりするんですね。だからこそ、厳しい時とそうでない時との「メリハリをつけること」を意識しています。
また、否定をしないことです。本当に良いものには良いと伝え、うまくいっていない時にはがんばろうねと安易に言うのではなく、課題となることや変えたいことをしっかりと伝えるようにしています。

コンクールや、オペレッタの公演での毎回のオーディションなど、結果がともなってしまうものに関して、どのようにお考えですか?

オーディションは厳しいものですが、すべての子どもにチャンスが与えられているという面では平等だと思っています。そのチャンスが与えられた中で、いかに発揮できるかが大切です。
オペレッタのオーディションの場合は、1年に1回の場なので、それがあることによって子どもたちはものすごく成長しています。主役になれなかったとしても、ステージの上で花や動物、風景として舞台に立ちますが、そのように舞台に立つことで、皆で作り上げることの大切さは学ぶことができます。何事にも得られた結果には意味がありますから、本人たちもわかっているとは思いますが、その都度機会をみて、私からもみんなへ伝えています。

子どもたちが表現力を身につけるために、アドバイスをお願いします。

大体の方が「表情を良く」と言われたことがあるのではないでしょうか。でもただ「良い表情」ではなく、意味のある「良い表情」ができたら変わると思います。
言葉については、その子自身がどれだけ具体的に内容を感じているかが大切です。そして、自分だけが感じてもダメで、相手にも感じてもらえるための歌い方の工夫が必要です。
自分だけが感じているのでは、自己満の演奏になってしまいます。相手にそう聞こえるための具体的な抑揚の付け方やブレスの仕方の工夫を考えてみてください。

最後に、今後の展望についてお聞かせください。

まずは、今の活動を継続させることです。そしてこれからは中学生にもたくさん入ってもらい、今回全日本こどもの歌コンクールで演奏したような少しレベルの高いものにも挑戦し、音楽の幅を広げていけたらと思っています。
お姉さんが増えることで低学年の子どもたちにも様々な音楽経験をさせてあげられると思いますし、もっと先には、中学生、高校生と広がり、今まで続いてきた北上ミューズコーラス隊というものを、これからも“北上”の地で、“北上”の子どもたちを育てていきたいと思っています。

ミューズという場は、大人も子どもも先生もみんなが学びあっている場なのではないかと思います。

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