一般社団法人全日本こどもの歌教育協会 編集部
取材・文:浅見聖怜奈

最優秀指導者賞インタビュー | コラム&インタビュー
岩本 典子

岩本典子先生は、本協会主催の「第1回全日本こどもの歌コンクール」独唱部門 小学1・2・3年生の部にて『最優秀指導者賞』をご受賞されました。子どもたちへの愛溢れる先生の、子ども自身が感じる内なる表現を引き出すご指導方法について、具体的にお伺いさせていただきました。

岩本典子(いわもとのりこ)

栃木県宇都宮市出身
5歳からピアノを習い始める。
宇都宮短期大学教育音楽科ピアノ専攻卒
卒業後カワイ音楽教室の講師となり、現在も個人レッスン、グループレッスンを担当している。
毎年50人以上の生徒を歌やピアノのコンクールに出場させており
・全日本こどもの歌コンクール 優秀指導者賞受賞
・カワイ音楽コンクール 優秀指導者賞 23回受賞
・栃木県作曲家コンクール 優良賞
生徒受賞歴では
・全日本こどもの歌コンクール グランプリ 金賞 ベヒシュタイン賞
・カワイピアノコンクール本選 最優秀賞 優秀賞 優良賞など 複数回
・カワイ子どもピアノコンクール本選 金賞 複数回
・カワイ歌のコンクール本選 金賞 複数回
・栃木県学生音楽コンクール 金賞 複数回 本選5位以内 複数回(第1位 2回)
・寛仁親王牌 童謡こどもの歌コンクールグランプリ大会 こども部門 金賞
・ショパン国際ピアノコンクールin ASIA 全国大会出場
・全日本ジュニアクラシック 全国大会出場
・カワイピアノコンクール 全国大会出場
と生徒のコンクールに意欲的に活動している。
個人では子育て支援でのリトミックや子どもたちへコンサートを開催している。
特技は囲碁。

今回、第1回全日本こどもの歌コンクールで、先生の生徒さんでいらっしゃる新村京介くんが、独唱部門 小学1・2・3年生の部にて、グランプリ・金賞・ベヒシュタイン賞をご受賞されましたが、京介くんは先生の甥っ子さんでいらっしゃると伺いました。本協会公式チャンネルのYouTubeにも度々ご登場頂き、動画内ではほっこりするような場面をたくさん拝見しましたが、レッスンはどのように取り組まれていらっしゃるのでしょうか?

いつも京介にピアノの間違えを指摘されるという…(笑)お恥ずかしい限りです。
そうですね。レッスンでは、「礼に始まり礼に終わる」ということを徹底しています。
普段は仲良く遊んでいますが、先生と生徒という関係のレッスンの時は、お話も敬語を使ってしています。

徹底されていらっしゃるのですね。レッスンでは、何を大切にご指導していらっしゃいますか?

まず、大切にしているのは「詩の朗読」をすることです。
言葉一つ一つの意味を理解し、母音や子音を丁寧に練習したら、曲のテンポに合わせて朗読したり、緩急をつけたり、「詩の朗読」一つとってもたくさんのアプローチがありますね。
また、同じ言葉でもお子さんとたくさん意見交換し合いながらさまざまな表現を探します。
歌唱では、必ず「母音唱法」に取り組みます。
鏡で口の形を見ながら、母音の形をチェックしながら歌うことで身体に覚えさせていきます。
私は指導の傍ら、リトミック教室や子どもたちへのコンサートも定期的に開催しているのですが、最近のお子さんは童謡をあまり知らないように感じます。ですから、まずは音程やリズムを正しく取れるようになるところから、時間をかけてレッスンをしています。

特に小さいお子さんの場合、日常的に音楽に触れる時間が多ければ音程感覚が身につきやすいなどとききますが、それでも音程を正しく歌うことが苦手なお子さんもいらっしゃると思います。音程感覚を養うために、先生が取り組まれていらっしゃる方法を教えてください。

そうですね、私のレッスンでは、「真似っこゲーム」という練習方法を行っています。私(先生)がまず、ある音程で「○○ちゃん」と呼びます。そしたら、その呼ばれた音程に合わせて「はーい」とお返事をしてもらうというものです。高い声から低い声など、またそこに「嬉しい」や「悲しい」の表情を足すこともあります。
また、どんな言葉でもよいのですが、例えば「ミックスソーダ」という言葉に音程をつけて真似してもらったりもします。
そして、ピアノで弾いた音を声で真似してもらったり、実際にピアノでその音を当ててもらったり、そんなふうに音に触れ合っていくとだんだんと身についていくように感じます。

遊びの延長のような感覚で、いつの間にか音程感覚を養うことができるのですね。

京介くんを初め、先生の生徒さんは様々なコンクールへご出場され素晴らしい結果を残していらっしゃいますが、コンクールは良くも悪くも評価をされる場であるので、お子さんもご家族様も様々な困難を乗り越えながら挑戦されていらっしゃると思います。先生は、コンクールを受けることの意義をどのようにお考えでいらっしゃいますか?

そうですね。音楽を習ううえで、歌が上手になるということはもちろん過程の一つにあると思います。しかし私は、音楽を習うことが、「人生の糧」になってくれたらいいなと思い指導しております。音楽を学んだ経験で将来の選択肢が増えたら素敵だなと思います。
ある生徒さんは、小さい頃に経験したコンクールが、人生で一番ドキドキしたことだと言っていました。その後社会人になり会社に入ると、どんな緊張するプレゼンテーションでも歌のコンクールを経験しているからその緊張に比べたらなんてことないそうなんです。
人生の中で、何かを乗り越えたことというのは大きな経験として糧になります。そういう経験をさせてもらえるのが「コンクール」だと思っています。

先生からすると何より嬉しい、素敵なエピソードですね。

はい。そんなふうに歌のレッスンを人生の糧にしてもらえることを一番願っています。
また、コンクールはたくさんの先生方に聞いていただける良い機会でもあります。しかし審査員によって全く違う講評をいただくこともあります。良いという意見と悪いという意見を同時に頂いてしまうと、子どもたちはどっちだったんだろうと不安に感じてしまいます。そんな時は人によって感じ方は違うのでどちらの意見も合っているんだよ、と伝えています。
たくさんの舞台に立って、成功体験も失敗体験も嬉しさも悔しさもたくさんの経験をして、一緒に成長することができたら、一番素敵なことだと思います。

コンクールでは、選曲も大事な要素になるかと思いますが、どのように選曲をされていらっしゃいますか?

そうですね。まずは、生徒さんの特性に合わせて選曲した5曲ほどを生徒さんへお渡しします。そして5曲全て歌っていただいて、心がこもっていて、合いそうだなと感じた曲を選曲します。しかし、私がいいなと思ったものでも本人や親御さんと意見が合わないことは多々ありますね(笑)。

難しい問題ですね。本人の歌いたい、という気持ちも大切だと思いますが、岩本先生はそのような場合どのようにされるのでしょうか?

その際は、長年の経験から「私の選ぶ曲の方が上手に歌えると思いますよ」と自信をもって伝えますね。
やはり、お子さんそれぞれに得意な音域がありますし、苦手な音程の幅が出てこないものを選んでいます。

小学校高学年になってくると、皆さん悩まれるのが変声期だと思います。変声期というのは人それぞれ違いますし、とてもデリケートな問題なのかなと思うのですが、先生は変声期のお子さんたちとどのように向き合われていらっしゃいますか?

そうですね、出しにくい音域を無理に出すことはせず、移調をして音を下げるなどの工夫をしています。しかし、今まで歌えていたものが歌えなくなってしまうというのは、本人にとって大きな出来事です。こどもの気持ちを第一に寄り添い続けることしかできないと思っています。

ありがとうございます。

第1回全日本こどもの歌コンクールにおいて、先生の生徒さんの歌唱は声での表現が素晴らしかったと記憶しております。子どもたちが表現力を身につけるために、どのような取り組みをされていますか?

歌う曲のイメージを膨らませるために、絵を描くことは最初のステップとして大切にしています。一番は、お子さんが感じたことを歌で表現できるように、どう引き出すかが重要だと思っています。ですから、私はこのように歌ってと指示することはしません。身振り手振りなども指示したことはありません。
何かを与えず、お子さん自身が感じたことが出てくるように上手く導けたらと思っています。例えば、歌っているときに手が少し動いたとします、その時に「それ素敵だね」というと、次歌った時には、振りに一生懸命になってしまい、素敵だねと声をかけたところをわざとやるようになってしまうことがあります。でも私は、それは違うと思うのです。振付は、お客さん側としては素敵に見えることもあるかもしれませんが、審査員の目は欺けません。歌の表現力には身振り手振りは必要のないことだと思っています。

しかし、子ども自ら発した身振り手振りの表現は大切にしたいので、「なんだか今の歌素敵だったよ」などという声かけで、その振りに集中しないような伝え方を心がけています。ただ例外的に、小さいお子さんの場合は歌詞を覚えるために振りをつけることはありますね。
お子さんが感じることをどう引き出すかが指導者として大切なことだと思います。
また、表現力を引き出すために長調の曲をわざと短調で歌ってみたり、逆をやってみたりすることもあります。子どもたちは自ら違いを感じると、その違いを出そうとするように思います。

先生がうまく歌えるように形を整えてしまわず、お子さんの感性を大切に、お子さんから引き出すことに向き合われている先生のご指導、素晴らしいと感じました。
そんな先生が、子どもたちへ指導する上で大切にしていることは何ですか?

「怒らない」ということです。全部を褒めます。例えば歌詞を間違えてしまったとしても、否定はせずに「その歌詞も素敵ね」と言うようにしています。絶対に「違うよ」という言い方はしないことを心がけていますね。
否定されたことというのは、いつまでも子どもたちの心に残ってしまう可能性があります。怒っても萎縮させてしまうだけですし、言い方や伝え方を工夫することが先生としての力のような気がします。

最後に、岩本先生の思う「歌の魅力」を教えてください。

歌は、音楽の「原点」だと思います。私はピアノを教える時も、その曲に歌詞をつけて歌うということを必ず取り入れています。私自身がもう「歌の虜」なんです。
小さいお子さんは、言葉よりも先に歌っていたりしますよね。私たち人間は日々の生活の中で口ずさんだり、鼻歌を歌ったり、絶対に歌っているはずです。
ですから私は、全ての原点が「歌」であると思っています。

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