一般社団法人全日本こどもの歌教育協会 編集部
取材・文:浅見聖怜奈

ボイストレーナー&歌手 | コラム&インタビュー
江本 有佳里

「音楽は私の全てです」このインタビューの最後、先生がお話しくださったこの言葉は今でも私の中で、先生の歌への愛とともに残っています。
アーティストとして、ボイストレーナーとして、幅広くご活躍中の江本有佳里先生。
今回はそんな江本先生へ、ご自身のご経験から、現在こどもたちへの指導を通して感じていることなど、たくさんお話しいただきました。

江本有佳里(えもと あかり)

千葉県出身のシンガーソングライター、作曲家、ボイストレーナー。
高校時代から自身のアーティスト活動としてオリジナル曲を作り始め、シングルCD・アルバムなどをリリースしながらライブ活動を本格化する。音楽活動をメインに、その他ショートムービー・ミュージカル・ラジオ・ 広告パンフレットモデルなどとしても活動。現在はボイストレーナーとしてアーティスト育成、音楽教育など幅広い範囲で活躍中。

~主な経歴~
◆世界遺産 京都醍醐寺 てらこやプロジェクトに参加
◆観光協会 広告モデル・ リポータ ー
◆ラジオbayFM・ラジオ日本
◆ショートムービー NTTプレゼンツ「TIME DRIFTER」
◆ミュージカル「社会の窓」
◆ブライダル Pure select CMサウンド
◆楽曲 提供
◆NPO団体 エンタメクラス ボーカル講師
◆EXILE PROFESSIONAL GYM(EXPG)STUDIO ボーカル講師
◆S.A.I Kids Vocal Academy ボーカル講師
and more…

アーティストとして

江本先生が音楽を始めたきっかけを教えてください。

物心ついて、一番最初に習ったのはピアノだったと思います。

でも、実は、1歳半くらいの頃に地元新聞に「マイクを持って歌っている」写真が掲載されたことがあって。両親から聞いた話だと物心つく前からおもちゃのマイクを手によく歌っていたらしいんです。父親が音楽好きなのと、一緒に住んでいた祖母が自宅でスナックをやっていたので家にカラオケがあって、お客さんが歌っているのを聴きに行ったり、真似したりしていたみたいで(笑)、そういう意味では一番最初は歌だったのかもしれません。

なるほど。何かきっかけがあったというより、もう周りに自然に音楽が溢れていたのですね。 江本先生が本格的にアーティストになろうと思ったのはいつ頃ですか?

そうですね。いろいろ思い出してみると、学生時代あまり勉強が得意ではなくて、自分の興味のあることは続くのですが、興味のないことはあまり続かないという性格の中で、音楽、歌に対しては興味があって、褒められることも多かったんです。自分にとって自信のもてるものが音楽で、 中学生くらいの時からざっくりとですが、「私は将来、歌で生きていくな」という確信がありました。

え~!では、何か大きなきっかけがあったというわけではないのですか?

はい。自然とそう思ったという記憶があります。そして、こどもながらアーティストになって売れるためには、まずはオーディションを受けないといけないなと思って、当時インターネットで募集していた音楽事務所のオーディションを受けました。その初めて受けたそのオーディションに合格して、中学生の頃から音楽活動を本格的に始めることになりました。

最初はどのような活動をされていたのですか?

やはり自分では何をどうしていいのかもわからなかったので、事務所から楽曲を提供してもらい、レコーディングをしてというような活動でした。

なるほど。
プロフィールでは、高校生の頃からオリジナル曲の制作も始めた、とのことですが。

はい。事務所に用意していただいた楽曲に向き合う中で、だんだん「自分はこうしたいな」「こんな曲が歌いたいな」とかそんな思いが強くなってきたんですね。そしてじゃどうしたらいいんだろうと考えたときに「自分で作ればいいんだ」ということに気がついて、その頃事務所も変わったりして、アーティストとして歩き始めたというような感じです。

すごいです。
これまでお話を伺ってきて、歌のレッスンに通われたようなお話がなかったと思うのですが、歌を習うということはされてこなかったのですか?

そうですね。小さい頃にきちんと習って、というのはなかったんです。でも叔父が歌を歌っている人で、叔父の作った曲を歌ってみたり、オーディションを受ける際には「俺の夢を託す」じゃないですけど、少しアドバイスをもらって、みたいのはありました。

なるほど。事務所ではボイストレーニングのレッスンはなかったのですか?

事務所でもきちんとしたレッスンはありませんでした。レコーディングの際に、ディレクターの方からのディレクションで、その曲を作る上で、この曲に対してここはこう歌ってなどはありましたが、声を出すことについては学校の授業くらいで、あとはほぼ独学でした。

独学ですか!?

はい。でも、18歳くらいからボイストレーニングのレッスンを受け始めたんです。

そうなのですね。それは何かきっかけがあったのですか?

シンガーソングライターとして活動していく中で、同じようなミュージシャンとの出会いもあって、自分には歌唱力やいろんな経験が足りないなと感じて。そういった仲間に聞いてみたらみんなボイストレーニングを受けているということで、やっぱりすごく上手な人も周りにいたし、もっと上手になりたい、これ以上独学は難しいかなと感じて、習い始めました。

そんな経緯があられたのですね。ありがとうございます。

指導者(ボイストレーナー)として

現在、EXPG STUDIOにてボーカル講師としてご指導されていらっしゃるとのことですが、指導者になったきっかけ、または指導者になりたいと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

シンガーソングライターの活動の中で、「世界遺産 京都醍醐寺てらこやプロジェクト」という、いろんなワークショップを行うイベントで、私は小さい子からご年配の方まで楽しめる家族向けのステージで、童謡など、例えば家族をテーマにした物語に音楽をつけるといった演奏をしたことがありました。そこで、ダンスメインのてらこやプロジェクトの活動を行なっているNPO法人の方がたまたま見にきていて、これから歌のクラスも作りたいのでそこで講師をしていただけないかとお声がけいただいたのがきっかけです。

※レッスン写真はS.A.I Kids Vocal Academyのものです。

すごいご縁ですね。

そうですね。そのお声をいただいて一度見学しに行きました。その時にこどもたちがすごくキラキラ踊っていて、こどもを好きだったというのもあり、自分の今までの経験を伝えることができるのならやってみたいなということで、指導をはじめました。そこから、音楽仲間やお仕事でお世話になっている音楽関係者の方々にこどもたちへの指導を始めたことを話したりしていたら、EXPGで新しくキッズのクラスを新設するのでそこで講師をお願いできないか、とのお話をいただいてEXPGに入ることになりました。今はキッズから大人まで指導させて頂いています。

そうだったのですね。先生が、ご自身のアーティスト活動の中で出会った方々によって指導者の道へと進むことになったなんて、本当にすごい巡り合わせですね。

はい。指導者になるために出会った人たちはみんな、自分がアーティスト活動していて出会った方々なので、本当にそうですね。

では、続いて先生のご指導についてお話を伺いたいのですが、先生がこどもたちに指導する上で、大切にしていることはなんですか?

そうですね。歌は身体が楽器になるので、楽器の作り方といった技術的なことは私が教えてあげられることではあると思うのですが、基本的に、全てこどもたちに決めさせるということを大切にしています。例えば、何かイベントに向けて、「こういうイベントがあるけれど、あなたはどうしたい?」「どうやって歌いたい?」と聞いて、こどもたちと一緒に話をすることを大事にしています。「ここはこういう風に歌いなさい」と決めつけることはしないようにしています。

こどもたちの発想の豊かさは、やっぱり大人にはないものがあって(笑)、こどもたちが受け取る感性を、むしろ私が受けっとて、一緒に作っていくようにしています。

それから、できるだけネガティブな方向に行かないようにするということも大切にしています。本当に、こどもたちってびっくりするほどポジティブなんです。

なるほど。確かにそうかもしれません…!

例えば、EXPGではイベントの後には必ず反省会といいますか、振り返る時間を作っているのですが、その時に「どうだった?」と聞くと、こどもたちは10人中10人、いいことしか言わないんです。大人のクラスだと、「緊張して普段通りいかなかったところがあるから次回はこうしたい」とか、反省点に目を向けがちなのですが、こどもたちは「どこがよかったか」ということを多く口にします。「ちょっと失敗しちゃったけど、今までで一番よかった」など、悔しさや反省点を口に出しても、できたことに目を向け、必ずポジティブで前向きな感情で解決させていて、本当に常に前を向いていると感じます。

先生が感じるこどもたちが上達するポイントはありますか?

EXPGでは、やはりLDH所属のアーティストへ憧れて、かなり明確な目標を持って通っているこどもたちが多いなと思うのですが、どんな状況であっても「自分はこういうふうになりたい」という強いイメージを持っているかどうかだと感じています。

その大きな目標に向かって、今月中にこれをクリアしよう、そのために1日に換算したら今日はこれをやろう、などそのように考えられる子は上達が早いなと思います。

ポップスというジャンルの歌唱において、大切なことはなんですか?

そうですね。私がレッスンで軸としていることは、まず「呼吸」、そして「脱力」「共鳴」です。自分の身体が楽器になるので、深い呼吸と、力が入ってしまうと呼吸も浅くなってしまうので脱力、そして声を身体に共鳴させてあげることが大切だと考えています。そして自分の声をいかに鳴らすことができるか、ということを大切に、声を作らないようにということをよく言っています。

ありがとうございます。どんなジャンルでも基本は同じなんですね。
先生から、歌が大好きなこどもたちへ向けて何かアドバイスをお願いいたいします。

皆さんの歌が大好きな気持ちを大切に、毎日声を出してみてください。上達すればもっと楽しくなるはずです。そして夢をつかみたいと思うのであれば、きちんとイメージして、そこに向かって進んでいくことです。

貴重なお話をありがとうございます。

アーティスト・指導者として

先生ご自身は、幼い頃にボーカルレッスンを受けられていなかったとのことですが、現在こどもたちへの指導をされる中で、やはり小さい頃からレッスンを受けた方が良いと考えていますか?

そうですね、正直どちらでも良いかなと思っています。こどもの頃から必ず始めなければいけないということはないです。ただ、今、小さい子から大人まで指導させていただいている中で、小さい頃からレッスンを受けられるということは大きいのかなと感じています。理由は、こどもたちはとにかく飲み込みが早く、柔軟性もあって、変な癖もついていないことが多いからです。

私自身、18歳の頃にボイストレーニングレッスンを始めて、まず最初に、それまでの歌い癖を直すという壁のぶつかり、かなり苦労しました。歌が楽しい・好きだという気持ちの状態で正しい呼吸の方法や身体の使い方を身につけられるのは良いことだと感じています。

アーティストとして、そして指導者として、これからの展望についてお聞かせいただけますか?

このコロナ禍の影響によってアーティストとしての活動は少しお休みをしている状態です。でも、指導者になるきっかけも自分がアーティストとして活動していたことにあるので、そしてやはり自分がステージに立つことが指導にも役立つと感じているので、アルバムを作るなど、時期を見てまた再開したいと考えています。そして、これもコロナ禍で一度辞めてしまいましたが、ボーカルスクールの立ち上げも考えています。

先生のエネルギー溢れるパワフルなご活躍、とても楽しみですね。
最後に、先生の思う「歌の魅力」を教えてください。

とにかく音楽って素晴らしすぎるものなんです。理屈じゃないんですけど(笑)。

生活には必ず音楽があって、街に出ても音楽が流れていて、音楽に囲まれて生きている中で、歌は自分から発することができるもので、自己表現のツールでもあることですかね。
でも、もう意識したことないくらい私にとって日常の中にあるものです。多分音楽がなければ生きて行けないくらいです(笑)。
魅力と言いますか、私の全てが音楽です。

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