取材・文:浅見聖怜奈
最優秀指導者賞インタビュー | コラム&インタビュー
内海 郁
内海郁先生は、本協会主催の「第1回全日本こどもの歌コンクール」独唱部門 中学生の部にて『最優秀指導者賞』をご受賞されました。これまでにも多くのコンクール受賞者やオーディション合格者など多数輩出されていらっしゃいます。
今回は、日頃どのように生徒さんと向き合っていらっしゃるか、コンクールまでの道のり、先生のご指導方法についてなど、具体的にお伺いさせていただきました。
- 内海郁(うちうみいく)
札幌大谷高等学校音楽科ピアノ専攻卒業・札幌大谷短期大学音楽科声楽コース卒業。声楽を綿貫美佳 元劇団四季荒川久美江 雨貝尚子 荒木栄子,ピアノを秋元恵理子 福士かおる 熊谷玲子各氏に師事。北海道にてミュージカル・宝塚音楽学校受験指導・合唱・声楽・子どもの歌・ピアノ・ソルフェージュ・伴奏法まで音楽科目の全般を指導,コンサート活動と共に幼稚園・小中学校・合唱団の指揮や歌唱指導も行う。2018年・2020年Child AiD Asia Tokyo【こどもの未来を拓くコンサート】・2018年台湾原声童声合唱団を迎え日台親善コンサート出演で世界のお子さんたちとの音楽を通じての文化交流活動にも尽力する。札幌厚生病院トワイライトコンサートや福祉施設等でのコンサートを企画出演し、音楽の楽しさ・演奏の楽しさを広める活動も行う。第34回童謡こどもの歌コンクールこども部門銀賞・2018年テレビ朝日題名のない音楽会・オーケストラと夢をかなえる夢響・2023年日本テレビ全日本歌唱力選手権「歌唱王」(10歳最年少)出演・第10回全国ファミリ―音楽コンクールinよっかいちグランプリ文部科学大臣賞・第24回大阪国際音楽コンクール 声楽部門・ミュージカルコース ジュニア エスポアール賞・第65回 SMASH CABARET優勝・第2回国際管弦声楽コンクール ミュージカル部門 中学生の部 第1位・第3回国際声楽コンクール東京 ミュージカル中学生部門 第1位・第3回国際声楽コンクール東京 ミュージカル小学生部門 第1位に導く。現在はミュージカル子役指導・俳優養成や音楽学校受験指導の他ステージマナー・所作指導・オーデション面接対策も行い夢に向かうお子さんたちのプロデュースも行う。
【指導実績】2022年宝塚音楽学校110期合格,劇団四季「ライオンキング」ヤングシンバ合格,劇団四季「サウンドオブミュージック」子役合格,ミュージカル「赤毛のアン」合格,ミュージカル「スクールオブロック」合格,カワイ歌のコンクール最優秀指導者賞,AMAピアノと歌と管弦打のコンクール優秀指導者賞
【現在】厚別西ピアノ・うた・ミュージカル教室主宰,カワイ音楽教室ピアノ・声楽・コーラス担当,北海道新聞文化教室講師,国際声楽コンクール東京・プリマヴェーラ声楽コンコルソ審査員,PSTA認定講師,札幌大谷高等学校同窓会ペオニア会員,カワイ音研会会員,AMA【All Music Association】北海道支部長,全日本マナー検定協会マナーアドバイザー,チャイルドカウンセラー,家族療法カウンセラー
現在、どのような生徒さんにご指導されていらっしゃいますか?
3歳から大人の方まで、声楽やコーラス、ピアノの指導を中心に、ミュージカルの舞台や宝塚音楽学校、劇団四季を目指すお子さんや、音楽大学への進学を目指す生徒さんもご指導させていただいております。
基本的には、声楽のクラシックの分野を軸として、ミュージカルなど、生徒様のご興味のあるジャンルのものをレッスンしています。
今回、第1回全日本こどもの歌コンクールでは、見事、多くの先生の生徒さん(独唱部門 小学校4・5・6年生の部 銀賞・審査員長賞 山﨑 陽斗くん、銅賞・ブラウネル 月翔くん、中学生の部 グランプリ・金賞・ベヒシュタイン賞・グレイグ 楼奈さん、奨励賞・ブラウネル 麗彩さん)がご受賞されました。日頃からそれぞれのお子さんのご興味のある分野に合わせてレッスンをされていらっしゃるとのことですが、そのレッスンの内容について具体的に教えてください。
ミュージカルの場合はミュージカル発声と合わせて、小さいうちから頭声の発声も指導します。小学校4年生くらいまでは、高音域も気持ちで乗り越えられることもありますが、やはり女の子でも変声期に入ると、高音域が発声しにくい時期がきます。
小学校高学年になったときに、切り替えが上手くいくように、ミュージカルの発声と頭声の発声を分けてレッスンしています。なぜならミュージカルの発声とクラシックの発声では声帯の使い方を変化させる必要があるからです。また、ミュージカルの場合は、歌う楽曲の役柄やキャラクターに合わせて、声の出し方も工夫して変えます。ミュージカルのジャンルに取り組んでいないお子さんであれば、おおよそ古典的なクラシックの要素を使って歌っています。
ミュージカルのジャンルに取り組んでいらっしゃる方は、ミュージカルの発声と頭声を小さい頃からトレーニングされるとのことですが、それにはどんな効果があるのでしょうか?
小さい頃から地声ばかりを使って歌っていると、大人になってもその癖や感覚(とくに聴覚)が抜けずに、ずっとその発声になってしまう可能性があります。そうなってしまうと高音域になると、あきらかに「頭声に切り替わる」ということが起こってしまいます。そうならないために、小さいうちから、ソルフェージュのレッスンやコールユーブンゲン・コンコーネを使い、下から上までなだらかに歌えるよう訓練し、整えていきます。小さい頃からそのように訓練すると、低い声も高い声も同一の響きで歌えるようになります。ここでいう響きとは、音の強さではなく響きの種類のことです。
私のレッスンでは、1時間のレッスンならば1時間、必ず私も一緒に歌います。ピアノも使いますが、ピアノのヘルツと歌声のヘルツは多少違うと思います。例えば、生徒さんの音程がずれていた時に、そのずれている音をピアノでポンと鳴らして、「この音に合わせて」と言っても、歌声とピアノの音では違うはずなんです。肉生の声というのはあたたかみがあったり、ピアノの楽器だけでは得られない和声感もあったりするかと思います。だから、発声から全て一緒に歌い、生声のヘルツに合わせていくというレッスンをし、音程や響きを身につけていきます。
そういった地道な訓練をしていると、音程が外れているというお子さんは少なくなっていきます。
確かに、響きのことなどを言われても最初はわからないですよね。先生の声を聞いて身体で覚えていくというレッスンでは、いつの間にか理解できるようになる気がします。
先ほど「音程」のお話がありましたが、特に小さいお子さんの場合、日常的に音楽に触れる時間が多いと、音程感覚が身につきやすいなどということを耳にしたことがあります。
しかし、中には音程を正しく歌うことが苦手なお子さんもいらっしゃると思います。先生がこれまでご指導されてきた中で、音程を取るのが苦手なお子さんはいらっしゃいましたか?また、その場合、どのようにご指導されていらっしゃいますか?
「音痴」という単語があると思いますが、私は「音痴」な人はいないと思っています。少し音程が外れてしまっているというだけなんです。例えば、調律のされていないピアノでずっとレッスンしていたら聴覚が正しい音を感じられないために音を正しく聞く力はもちろん狂ってしまうと思います。よくマラソンで伴走という言葉がありますが、どういう人と一緒に伴走していくかということで、お子さんの能力は変わっていくのかなと思っています。
音程感覚が良いお子さんの特徴は何かありますか?
そうですね。私は、音程は全部「聴覚」だと思っています。耳の力が強いお子さんは、音感やリズム感などが良い傾向にあります。小さい頃は、ご家族のお声を聞いて育つので、ご家族の中でお歌の上手な方がいる場合は聴覚が養われているように感じています。音を脳が認識するにも、まず「耳」があってですから。歌の場合は、特に耳を育てることが大切だと思っています。
耳を育てるために具体的にはどのようにレッスンをされていらっしゃるのでしょうか?
発声練習の時から、自分の出している音と、先生の出している音がひとつに聞こえますか?と聞きながら、地道な訓練をしていきます。質問をすることで、お子さんは自分の声と私の声を聞けるようになり、さらにお子さんは感覚が鋭くて素早いので、早い方で1週間丁寧に練習すれば音程が外れるということは少なくなります。
26年間指導していますが、悪くなっていくという経験は無く、100%みんなが良くなっています。しかし、間違い探しをするように、自分自身と向き合い、見て、聴いて、パズルを当てはめていくという作業ですが、身体的な問題もあるので指導者や大人が絶対に焦ってはいけないと思っています。
「1+1=2」であることを理解するのと、「ド」という音の音程を認識することは、相当違うことだと思います。音程がずれてしまうという一つをとっても、それぞれのお子さんに様々な要素があってのことだと思うので、少しでも良くなったらたくさん褒めて、じわじわと当てはめていく、そして指導者はできるまで付き合っていくことが大切だと思っています。
とても難しいことですが、これが一番近道なのではないでしょうか。
先生のお教室では、たくさんの生徒さんが様々なコンクールへご参加され、素晴らしい結果を残されていらっしゃいます。コンクールという場は、良くも悪くも順位がついてしまう場でメンタル面など、お子さんもご家族も様々な困難を乗り越えながら挑戦されていらっしゃると思うのですが、コンクールを受けることの意義はどのようにお考えでいらっしゃいますか?
まず一つ目に重要なことは、コンクールを受けることによって私以外の多くの先生方に演奏を聞いていただき講評をいただけることです。お子さん本人も、自分が勉強してきたことについてお褒めのお言葉をいただければ嬉しいと思いますし、課題をいただけたら次に向かって頑張ってみようかなという前向きな気持ちになれます。毎回、私(先生)が直接言うより、別の先生から一度ご指摘をいただいた方が気づくことができるということがありますね。「あ、先生の言っていること本当だったんだな」など(笑)
それは…(笑)私も実体験があります…。どうしても自分の先生だと甘えてしまったりして、いつもと違う環境でご指摘を受けることによって、やっと先生が言ってくださっていたことを受け入れられたり、繋がったりすることってありますよね。
そして二つ目は、やはりいつもと違う雰囲気、場所で歌うことの大切さです。
特に私たちは北海道なので、コンクールを受験するには飛行機に乗って行かなければならないんです。ご家族みんなで飛行機に乗って、ディズニーランドではなく(笑)コンクールに出るというワクワク感と、そのためにご家族が一つになって準備をして応援をする、こんな経験は普段のレッスンだけでは得られないことだと思います。
だからこそ、そこに至るまでのプロセスが大事なのです。生徒さんとご家族には、ここまでやってきたのだから「結果ではなくて、力を尽くそうね」と、そんな言葉がけをいつもしています。それでも初めてのコンクールの場合など、予選から思うような結果を得られなかったとき(予選を通ることも難しいことなのに)もう歌を辞めたくなってしまったりするんですよね。でもそれは初めての経験であるだけで、「ただ本番に慣れていない」「本番力が足りなかった」という要素もあると思います。
何事も初めてってそうですよね。知らない世界に飛び込むのですからそういうこともありますよね。
はい。たった1回上手くいかなかったことで、絶望的に自分はダメだと思ってしまったりすることがあります。でも、そんな時は「これは勝ちの途中で、今がゴールではないですよね」とお話ししています。
誰でも最初は「通過しない」や「不合格」という経験もないので落ち込みも激しいのですが、勝ちの途中なのだから今回の経験をどのように次に繋げて、生かすかを考えることが大切です。
でもこんな風にお伝えしていると、2回目くらいの挑戦からは、たとえ結果が振るわなかったとしてもご本人からもご家族からも「良い経験ができました」というお言葉に変わっていきます。
その気持ちの強さや変化というのはコンクールを受けるという経験がもたらしてくれるものなのかな、と感じています。負けを知っていると負けに強くなりますから、時に負けることも大切です。勝ち続けてしまうと、ずっと勝っていなければならないというプレッシャーもあります(笑)。それに、負けてから這い上がる強さも得られます。
うまくいかないことは大いにチャンスだと思います。うまくいかなかったとき、自分一人だけでの問題でもないので「何がどうだったんだろう」という風に考えることができる良いきっかけをいただけるのがコンクールという場であると思います。
本番の力をつけるのは、本番でしかできません。レッスンを飛び出してステージで歌うこと、本番になったら私はどんな風になってしまうのだろう、というのはやはり本番でしか経験できないことです。このように土台を作って、全てを自信に繋げていってほしいと願っています。
たくさんの学びがあるコンクールですが、コンクールに向けてのレッスンでは、どのような取り組みをされていらっしゃいますか?
コンクールの前には必ずホールリハーサルを行い、舞台所作等細かく指導させていただきます。ご両親様にも来ていただき、「結果ではなくて、過程が大切です」というお話をします。本人以上に親御様も一生懸命なのですよね。でもお子さんって、お母さんやお父さん、おじいちゃん、おばあちゃんに喜んでもらいたいという気持ちを一番持っていたりします。だから、ご両親様には結果が目標に到達しなかった時にお子さん以上に落ち込まないでくださいとお伝えしています。
コンクールまで一生懸命頑張って、「今日はもうこれ以上のことはできない、できなかった」と思えたら、もうあとは他者との問題もあります。自分が全力を尽くして臨めたのであれば、結果が全てではないですよね。もしも望むような結果が得られなくても、他の人は自分よりもちょっと何かが違ったというだけです。辛い時や悔しい気持ちを持った時にどう前に進んでいくかを考えることをいただいたよい機会だと思います。ちょっと大袈裟ですが、音楽って生き方の勉強でもありますよね。
先生の生徒さん、皆さん舞台所作が大変美しくて、先ほどもホールリハーサルのレッスンで舞台所作のご指導を徹底されているとこのことでしたが、具体的に教えてください。
私の生徒さんは、宝塚の受験生も多いので、とにかく舞台所作は徹底して指導しています。
舞台は、観にくるお客様はとても楽しみにいらっしゃいます。ですので舞台に出てくる瞬間から演奏が終わって見えなくなるまで、ワクワクしていらっしゃると思います。
お客様に、どのように自分の姿を「第一歩」で魅せるか、というのがまず大事になってきます。舞台に入る足は右なのか左なのか、目線はどのようにするべきか、間をどのくらい取るのかなどです。歌う位置に着いたら「何カウント待ってお辞儀をする」「目線の位置」なども細かくルールを作っています。ミュージカルの作品を歌うならば、下手からはけて見えなくなるまでその役柄の雰囲気を作り続ける必要があります。
生徒たちには細かいなと思われているかもしれませんが(笑)とにかくしつこく徹底しています。なぜなら、これは観ていただく側の人間、指導者として責任が伴うことであると思っているからです。「美しくエレガントに魅せる」ために、そのルーティーンが1個でも整わないと、その流れが全て演奏につながっているからです。
しかし、先日のコンクールでの出来事です。私はいつも「最後のピアノの音が終わってから4カウントしてお辞儀をする」というふうに指導しているのですが、山﨑くん(独唱部門 小学4・5・6年生の部/銀賞・審査員長賞受賞)が、演奏終了後、すぐにお辞儀をしてしまったんです。あの時、彼の演奏後すぐに、会場がざわめき、沢山の拍手をしていただいて、彼は4カウント待てなかったんですね。でも私は、彼のあの時の判断は、良い判断だったと思っています。ピアニストとのお辞儀のタイミングがずれてしまったのですが、こんなにもたくさんの拍手をくださるお客様に早くお礼がしたいと感じ、その心のままに感謝のお辞儀をしたこと、これはあの本番のあの場の状況でしか起こり得ないことで、喜ばしいズレだと感じました。彼が咄嗟に判断をして、あの流れを作れたことは素晴らしかったと思います。
ありがとうございます。
コンクールでは、選曲も一つ、大切な要素になってくるのかなと思うのですが、どのように選曲をされていらっしゃいますか?
コンクールで一番大変なのは選曲だと思います。私は選曲に沢山の時間をかけます。まず、その子の声の性質や声域を考慮し、いくつかお選びしてお渡しします。そして数週間かけて歌ってもらい、ここのパッセージはうまくいくか、ブレスは足りるかなど、細かく精査し、一番適切だと思うものを選んでいます。その生徒さんがどんなに好きな曲だったとしても、その子の良さが出ないかなと思うものは少し選曲に悩みますが、結局一番大切なことは、生徒さんがどの曲を聴いていただきたいかです。やっぱり好きな曲でないと気持ちが乗らないですから(笑)。
内海先生が、お子さんたちに指導する上で大切にしていることは何ですか?
ただ上手になるため・技術向上のためだけのレッスンをしないことです。
「こんにちは」とお教室に入ってきて、声を聞き、お顔を見た瞬間に、今日がどんな気分なのか大体わかります。何か違和感を感じた時には、必ずそこで立ち止まって話を聞き、何か言いたいことがないかを確認します。
中学生くらいまでの思春期のお子さんは、お家や学校で少し嫌なことがあるとトーンが暗かったりしますので、場所が変わっても気持ちの切り替えが難しかったりします。自分の心がどういう状況なのか、家にも学校にも関係ない第三者にだったら話せることもあるので、一緒にお話をして向き合っています。教室がそんな話をできる場所であってほしいと思っています。「さようなら」と帰る時には少し元気になれるように話を聞き心を安心させてあげるようにしています。
先生が自分のことを大切に想ってくださっているというのは嬉しいですよね。
毎日の生活で、自分一人だけに目を向けてもらえる時間って、意外となかったりするような気がします。ですので、毎回のレッスンでお子さんの良いところを見つけて、そして言葉にして伝えます。これはマンツーマンレッスンだからこそできることでもあり、音楽教育の良いところかなと思います。自分の頑張りをわかってもらえる、やったことがちゃんと認めてもらえるというのは、お子さんの喜びに変わっていきます。ですからお子さんの小さな頑張りのサインを見逃さないようにしています。
このように、音楽を学びながら「生きる明るさ」、こういったものを持ち帰ってもらえたらいいなと思っています。今の時代、色々な事がありますのでまた会えるかどうかもわからないと思います。だからこそ一回一回を大切に、「また会おうね」と言ってさようならをします。
小学校高学年になってくると、皆さん悩まれるのが変声期だと思います。変声期というのは人それぞれ違いますし、とてもデリケートな問題なのかなと思うのですが、先生は変声期のお子さんたちとどのように向き合われていらっしゃいますか?
そうですね、私は医学的なことはあまり詳しくないですが、早いお子さんだと小学4年生くらいから咳が出てきたり高音域が出なくなったり、変声期を迎えているように思います。
一番大切なことは「メンタル」です。
今まで歌えていたものが急に歌えなくなる、自分は何もしていないのに声がどんどん出なくなるという不可抗力は、悔しさや虚しさ、そういった感情が襲うので身体の変化よりも心の変化が大きいです。とにかく「大丈夫、いつかは必ず終わるから、付き合っていきましょうね」と声かけをしています。
変声期の間は歌わない方が良いという意見もあるかもしれませんが、日常生活で会話はしますし、声は出します。ですから、少しつまらないかもしれないけど、音域の合うものや移調してキーを下げたりして、無理をさせずに歌っていただく工夫をしています。
変声期が終わったらしっかりいい低音で歌えるようになりますから、数年はストレスがかかるかもしれないけど、絶対に整うからという安心感を持たせるように声かけをしたりし、一緒に乗り越えられたらと思います。歌が嫌いにならないことが一番です。
女の子の場合は、変声期を迎える前から地声と裏声の切り替え(中声域のトレーニング)をすることが大切です。声帯は見えないですが、決して力で押すのではなく、響きの変化を心や頭で感じることができるように一緒に訓練しています。
最後に、内海先生の思う、「歌の魅力」を教えてください。
「歌」や「音楽」は非日常的なものかもしれません。
時代の流れとともに、様々なお子さんがいらっしゃって、例えばお友達とお喋りをしたり、コミュニケーションを取るのが少し難しいお子さんもいらっしゃったりします。でも、そんなお子さんが歌を歌ってお客様に聞いていただくだけでも、自己肯定感が上がり、自信を持てるようになります。歌は、そんな「自己表現」ができるものだと思います。
さらに、「上手だったね」「また聞きたいわ」などお言葉をかけてもらうと、「歌を続けたい」「私(僕)にもやれるんだ」という気持ちになれるパワーも、歌にはあると思います。これは歌に限らず、芸事など表現するもの全般において言えることだと思います。歌を歌うことで身体を使うので、心身共に健康で、元気にいられる効果があると思います。
歌は、ただ技術を習得して上手に歌えるようになるだけではないものだと思っています。お子さんたちは歌を学びながら心もみるみる変わっていきます。そんな様子を側で見られることが指導者としては幸せですし、元気をもらっています。そしてお子さんが変わっていく様子を見ているご家族も、力をもらってきずなや輪が広がっていくように感じます。自分の可能性を信じて、沢山のお子さんたちに「歌」や「音楽」を楽しく続けていってほしいと願っています。