一般社団法人全日本こどもの歌教育協会 編集部
取材・文:浅見聖怜奈

NHK福岡児童合唱団MIRAI指揮者 | コラム&インタビュー
大庭 尋子

現在、合唱指揮者・声楽指導者として多くのこどもたちへご指導をされていらっしゃる大庭尋子先生。
「NHK福岡児童合唱団MIRAI」は、2022年東京国際合唱コンクールにて金賞、さらには最優秀課題曲賞、そして先生ご自身は最優秀指揮者賞を受賞されました。
しかし、この素晴らしい成績までの道のりは決してやさしいものではありませんでした。
NHK福岡児童合唱団の軌跡とともに、大庭先生ご自身のご経験、またそこから繋がるご指導について、お伺いさせていただきました。

大庭尋子(おおばひろこ)

福岡高校、福岡教育大学小学校課程音楽、東京芸術大学声楽科卒業。 声楽を北里由布子、福嶋敬晃、中村浩子、坂本博士各氏に師事。芸大卒業後、声楽家 坂本博士の音楽事務所に所属し、クラシックからシャンソン、カンツォーネ、ミュージカル、子どもの歌まで幅広い演奏活動をする。 1990年日墺親善交流コンサートにソリストとして参加。各地の小学校やチャリティーコンサートなどの演奏活動と共に合唱指揮者としても意欲的に活動する。全国おかあさんコーラスフェスティバルにてひまわり賞、ジュニアコーラスフェスティバルでは講師賞、2012年にはウイーン楽友協会ホールで、2018年にはカーネギーホールで行われた日米合唱フェスティバルに出場、2018年第1回東京国際合唱コンクール児童合唱部門においてグランプリに導びく、2019年第2回東京国際コンクール児童合唱部門金賞、2022年第4回東京国際コンクールでは最優秀指揮者賞及び児童合唱部門最優秀課題曲演奏賞・同部門第2位金賞受賞、現在NHK福岡児童合唱団MIRAI、フラウエンコール南、コールチュリバン、TNC文化サークル講師、シャンティCoCoの指揮者県外でも講習会等で指導にあたる。

改めて、大庭先生の現在のご活動について教えてください。 

創立から携わっているNHK福岡児童合唱団MIRAI、それから大人の合唱団と女性合唱団、3つの合唱団の指導をしています。また、文化センターで「楽しいコーラス」という講座を持ち、小学校3年生から93歳の大人まで、幅広い年代の方々に歌を教えています。

先生ご自身が音楽を始めたきっかけは何だったのでしょうか? 

実は、私は、とても体が弱い未熟児として生まれたんです。そんな私の泣き声を聴いた母が、「他の子よりも泣き声が綺麗だから、この子には音楽だわ」と思ったらしく、お雛人形を買いたかった父を説得して、ピアノを買ってくれて、そんな親の影響もあって自然と音楽の道へ進むこととなりました。

お母様の直感、さすがですね。音楽を学んでいて良かったと感じることはありますか? 

そうですね。私は少し成長の速度が周りと比べて遅かったんです。だから母から「人の3倍努力しないと人並みになれない」と教えられていました。そのせいもあってか、私はずっと人並みじゃないんだと思って、自信のない子どもだったんです。
でも、ピアノをやったり音楽で自分を表現することを通して、だんだんと表現力や集中力が身について、自信のない私から成長することができました。それはやはり音楽の影響が大きいのかなと思っています。

音楽を通してそんな風に変われるって素敵ですね。 

先生が、歌を始めたきっかけは何かありますか? 

高校に入学した時に、友達に誘われて合唱部に入りました。歌を歌うことで、普段声に出せない気持ちを素直に言えるようになったことで、何かが自分の中で芽生えてきたんです。それがきっかけとなって、地元の教育大の音楽専攻へ進学することとなりました。教育大学で4年間勉強した後は、非常勤講師を1年勤め、東京藝術大学へ入学しました。

なぜ、東京藝術大学へ進学しようと思われたのですか? 

そうですね、一番の理由は音楽に特化したアカデミックな教育を受けたいと思ったからです。でも、非常勤講師をしながらの受験準備はとてもとても大変で、課題曲のピアノは4曲中2曲しか暗譜ができていない状態で受験を迎えてしまいました。でもなぜか、暗譜のできていた曲が指定されたり、世界史の試験なんて、前日にたまたま見たところがそのまま出題されたり、聴音なんて、レッスンすら受けていなかったのに、合唱部でずっと内声を歌っていたからか、試験では内声がとてもよく聴こえたんです。
もうこれは藝大がおいで、ここで勉強しなさいと言ってくれているような気がしました。

それはもう、運命的なものを感じざるをえませんね。 

そうですね。でも、やはり歌だけをずっとやってきている人とはちょっと感覚が違ったのかもしれません。立派な声をもった周りの人たちに圧倒されてしまって、ここにいていいのだろうかと悩んだこともありました。
そんな時、お芝居をやっているシナリオ学科に入った高校時代の同級生がいて、そのお友達の関係で、お芝居や映画を作っている監督さんと会う機会をいただいたり、とっても貴重な経験をたくさんさせてもらいました。
また、やはり教育大にいたこともあって、「人を育てる」ということが好きで、演奏活動をしながらミュージックスクールの講師として、子供の歌や合唱などの指導をしていました。

早くから指導者としてのご経験も積まれていたのですね。 

恩師、坂本博士先生のコンサートでは、その日、会場にいらしているお客様の年齢層や雰囲気で、「今日はやっぱりこの曲に変更だ」とか、演出や振り付けもその会場の良さを生かすために、その場で突然変更になったり、ということがよくあったんです。私はなかなか融通が効かなくて、とても苦労しました。でも必死に付いていって、坂本先生の教えを、少しずつ自分のものにしようと頑張っていました。
そのせいか、今では私も会場の響き方を聴いて、やっぱり一段上がりましょうとか、すぐその場で変更してしまうんです。その時、その場でできる一番良いものを求めて、最後までお客様のために、お客様が喜ぶために何をしたら良いかを考えています。 坂本先生から学んだことが今でも私の財産です。

大変貴重なお話を、ありがとうございます。 

次に、「NHK福岡児童合唱団MIRAI」について、先生は合唱団の創立時からご尽力されているとお聞きしました。 

はい。18年前の創立時から合唱指導の責任者として携わっています。
藝大卒業後、東京で活動していたのですが、母の体調の関係で福岡に帰ってきました。最初は、東京と違い地盤がないので、とても苦労しました。ファンの方もいらっしゃらない中での演奏会は毎回試験のような気持ちでした。でもコツコツと続けていくうちにだんだんと名前を覚えていただいて、NHKの児童合唱団を立ち上げるときに、是非とも合唱教育の責任者としてとのお話をいただいて、携わることとなりました。

そうだったのですね。そんなNHK福岡児童合唱団MIRAIが、2022年東京国際合唱コンクールで素晴らしい成績を納められましたが、それまでの道のりについて教えてください。 

本当に色々なことがありました。まず、15周年の大きな催しをやろうとした時にちょうどコロナ禍となり、丸々2年半もの間、対面でのレッスンができず、ZOOMでのレッスンを強いられました。ZOOMでのレッスンは、それぞれのご家庭のWi-Fi環境の状況によって声が聞こえなかったり、途切れてしまったり、とても大変で、もうZOOMは嫌だと言って辞めてしまった子もいたりしました。
それでもなんとか続けて、やっと対面で練習できるようになって、福岡合唱連盟の合唱祭に出た時に、15周年でやろうとしていた曲を歌ったんですね。対面での練習はあまりできなかったけれども、ものすごく喜びに溢れた演奏で、みんなで歌える喜びを改めて感じました。
その時の録画が、ギリギリ2022年東京国際合唱コンクールの予選締切に間に合ったので、せっかくの機会だからと送ることにしました。そして予選を通過させていただき、児童合唱部門に出場することとなりました。
出場すると決まってからも、練習会場が毎回違ったためになかなかみんなが集まれなかったり、思うような練習ができていなかったんです。だから到底自分たちは練習量も足りないし、賞をいただけるとは思ってもいませんでした。
みんなで一緒に歌える場所がずっとなかったので、地下鉄の通路で歌わせていただいたりもしました。その時、お客さんたちが足を止めて涙を流して聴いてくださって、コロナ禍の苦しい時期を乗り越えて、子どもたちが歌う喜びを改めて味わうことができた、そういった経験をすることができたことが何よりでした。
なのに、金賞2位、さらには最優秀課題曲賞、そして私自身は最優秀指揮者賞をいただくという結果がついてきたんです。本当に奇跡のような出来事でした。
コロナ禍を我慢して我慢して、子どもたちが耐えた分、みんなとてもたくましくなりましたね。

音楽を心から楽しむ、そんな気持ちが音楽を通して伝わったからこそ付いてきた結果なのですね。素晴らしいです。 

そんな合唱団を導いてこられた先生が、指導において大切にしていることは何ですか? 

合唱は、人の声を聴かないといけないですよね。周りの状況を把握して、人に寄り添うことが大切です。でも、寄り添うばかりでなくて、自分が主体となってやらないといけないこともあります。そのバランスは社会生活においてもとても重要なことです。
自分が主体の中で、良い音楽を作るためにはどうしたら良いだろう、ということを感じないと良いアンサンブルはできないですよね。
なので、まずは音楽を通して、人間的に成長できることを大切に指導しています。
そんなことを念頭に教えていると、それぞれがパッと輝いて成長したりするんです。音楽が好きな気持ちで少しずつ壁を乗り越えて、音楽で人が人間的に豊かになっていくんです。
これも、恩師、坂本先生のご指導から学ばせていただいたことです。
何のためにそこまでするんだろう、なんて思ったこともありましたが、そこには一本筋の通った音楽への情熱が潜んでいました。

また、歌には言葉がありますよね。詩人がその言葉を生むときには、その時の感情があります。
ですので、子どもたちには「言葉」を大切に、詩人が作った詩を作曲家がこういう音で表現したのだから、その気持ちを理解しようねと伝えています。
楽譜から何を感じるか、楽譜を見る力、詩を読む力というのが重要です。
楽譜って小説みたいでしょ?
いろんな手がかりが散りばめられていて、こういう音楽になるって面白いねと話しています。
そしてさらには、その上で、なおかつその人にしかできない表現をすることが大切です。
でも、楽譜にとらわれすぎてもダメで、人が真似できない音楽を常に求めています。

例えば、BELIEVEの「例えば君が傷ついて」という部分を歌うときに、「傷ついて」という言葉を全て同じ強さで読むことはしませんよね。でも、全部同じように歌ってしまう子どもたちがいた時、「そこは弱くしなさい」と指示することはしないように心がけています。「指揮」で、子どもたちの中から、人を思いやる気持ちが溢れてくるように伝え、導くようにしています。
やっぱり音楽は美しいものだから、その曲にふさわしくない声を出している時には「そこ変だよ」なんて少し汚い言葉で伝えてしまう時もあるんですが…
素直な子どもたちの前では、「こうしなさい」と言うのではなく、自分の指揮で引き出せるようにしたいといつも思っています。

最優秀指揮者賞をいただいたときに、「あなたは単なる棒を振ってない、子どもたちの皆さんから引き出しているし、あなたの背中からはどうしたいかが伝わってくる」と評価していただいて、まさにずっとそれを大切に、コロナ禍の苦しい時期も乗り越えてきたので、こんな奇跡みたいなプレゼントをもらえて、何より子どもたちが喜んでくれて、本当に嬉しかったですね。

合唱団が合唱団として成長するために大切なことはありますか? 

時間はかかりますが、良い声で歌える軸になる子どもたちが育つと、その子たちを中心に自然と成長すると思います。学年の小さいこどもたちは、上のお姉さんについていって、そのような関係性が構築されると全体がうまくいきます。
そのためには、合唱団のメンバーの仲を深めることも重要です。子ども同士でレクリエーションをやったり、そういった活動を通して良い関係性が構築されると自然と音楽のレベルもアップします。

子どもたちの力は計り知れないですね。子どもたちの持つ力を信じて、導くことが大切なのですね。 

そうですね。そして私は、このような環境で音楽を学んだ子どもたちが、いずれ社会のリーダーとして育っていってくれたらと願っています。

先生が考える音楽を表現する上で一番重要なことは何ですか? 

「息遣い」です。
だから、演劇の上手い人は歌が上手ですし、歌が上手い人は演劇ができます。
私は良い声を作るのは息遣いだと思っています。
息に乗せて、身体を使って息の流れで声を使うと、それぞれ骨格の違う人たちでも息によって声がまとまるんです。小麦粉のように(笑)。
息遣いって感情によって全然違いますよね。その息遣いを感じることが命です。それを感じることができなければどんな歌を歌っても色合いが出ないんです。
絵を描く人は、いろんな色を足して絵を描きますよね。それと同じです。ただ母音を繋げて歌うだけでは色は出ません。
学生時代、民族音楽も好きだったので、地声発声のブルガリアン合唱だったり、実際にインドまで行ってみたり、声に対する様々な感覚を身につけていたからかもしれません。

最後に、指導者として、先生が一番大切にしていること、また心掛けていることを教えてください。 

私は、音楽を通して、子どもたちを生き生きとさせてあげたいです。子どもたちの伸びやかな声で満ち溢れている世界は幸せな世界だと思います。
これまでの凝り固まっていたものから少しずつ自由になって、誰かに言われたことにただ従う優等生でいるのではなく、子どもらしい今の感覚で歌うことを伝えていきたいと思っています。

声を作ったり、曲を歌えるように音楽を作ったりすることはできてしまうけれども、作ってしまうだけだと、その後のその子の音楽の向き合い方までを育てることができないんです。特に、高校・大学受験等が絡むと、”合格するために”が先行してしまうことがあります。でも大学に入学してから、また大学を卒業した後は、音楽に対する感受性だったりセンスであったり、言葉に寄り添う力はその子の力になってしまうから、その根本を育ててあげたいと思っています。

どんな先生に出会って、どんな土台を作ってもらうかって、本当に大事ですよね。 

子どもたちはとても柔軟なので、こちらのやり方次第で、ものすごい変化をするんです。だから指導者の言葉はとても重要です。

好きな本の話や、好きなお芝居の話をしたり、歌詞を読んで情景を一緒にイメージしてみたり、また、日常生活の中でたくさんのことに触れて、風だったり光だったりを感じることで感性が豊かになっていきます。
あとは周りの子どもたちからの影響もありますね。
子どもたちが変わっていく瞬間が楽しくて、指導者としてのやりがいを感じています。

だから私の仕事は、種蒔きをして、水をあげることなのだと思います。
手をかけすぎてしまってもだめで、放っておく時期も大切です。
すぐに芽が出なかったとしても、いつかふわっと花咲いたらといつも願っています。

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