一般社団法人全日本こどもの歌教育協会 編集部
取材・文:浅見聖怜奈

最優秀指導者賞インタビュー | コラム&インタビュー
東海林 美名

東海林美名先生は、本協会主催の「第1回全日本こどもの歌コンクール」独唱部門・小学4,5,6年生の部にて『最優秀指導者賞』をご受賞されました。子どものボイストレーニングに特化した先生独自のメソッドについて、また生徒さんたちへの愛あふれるご指導について、具体的にお伺いさせていただきました。

東海林美名(しょうじみな)

ボイストレーニングスクールShiny☆Tomorrow 代表(鎌倉:恵比寿:オンラインレッスン)湘南ゴスペルWAVE主催
– 1991: 国立音楽大学 音楽学部 声楽専修を卒業
– 1991: 株式会社ポリスターレコード入社 宣伝部配属
– 1995: 同社退社 歌手としての活動をスタート
– 活動内容: 都内のジャズクラブやホテルでの歌の仕事、CMソング(ティファール、KFC、マツダデミオなど)、冬季オリンピック(長野)での歌の仕事
– 1998: アメリカのニューヨークに単身音楽留学
– ニューヨークでゴスペルに出会い、ハーレムゴスペルクワイアの第一期メンバーに合格
– アメリカ東海岸ツアー、日本ブルーノートツアー、日本テレビの『24時間テレビ』へニューヨークから参加
– ニューヨークカーネギーホールで矢野顕子氏と共演
– 2007: 湘南ゴスペルWAVEを設立し、湘南地区のゴスペルクワイアを代表する存在へ
– 同時にボイストレーナーとしての活動もスタート
– 2019: 新型コロナウイルス流行により、全ての歌の活動が中断
– オンライン化を模索し、受講生の数が増加。海外からも受講生を受け入れる
– この時期から子供のボイストレーニングを開始
– 2021: 子供の受講生がミュージカル『オリバー』のオーディションに合格し出演。その口コミから子供の受講生が増加
レコード会社宣伝部にいた経験や、ニューヨークで実際にミュージカルワークショップを受けた経験を活かし、オーディション対策講座を立ち上げる。
オーディション通過率90%の実績を上げる。
– 2023: 子供に特化したボイストレーニングの映像授業を作成し、ミュージカル『マチルダ』、『オリバー』、『冒険者たち』の出演者たちが実践するメソッドとして多くの方に実践してもらっている。

先生ご自身の音楽のご経験について教えてください。

私は、音楽大学の声楽科で学んだのち、ジャズシンガーとして歌のお仕事をさせていただいておりました。しかし、発声においてチェンジポイントでの切り替えにものすごく苦労し、高い音がファルセットになってしまったり、リズム感が無かったり、英語の発音の拙さなど、とても平坦な道ではありませんでした。そんな時、日本で初めてゴスペルを広めた亀渕友香先生に出会ったことで、歌声も人生も大きく変わることができました。
ひとつは、アメリカのニューヨークへ単身、音楽留学に行くという決意でした。ニューヨークでゴスペルというジャンルに触れ、歌が大好きな仲間たちと、自分らしく歌うことの素晴らしさを見つけることができました。ゴスペルのメンバーが優しく、「minaはminaらしく歌えば良いのよ」と教えてくれたこの言葉は、今でも私の心に響いています。

素敵なご経験ですね。先生は、現在どのような生徒さんにご指導されていらっしゃいますか?

初めは大人の方にボイストレーニング指導をしていました。しかし、あるきっかけを機に、お子さんに特化したボイストレーニング教室も立ち上げました。ミュージカルやコンクールで主役を目指すお子さんたちに技術的なサポートを提供するだけでなく、メンタル面、歌うための身体面、そして、保護者様のメンタル面までをトータルでサポートするボイストレーニング教室となっています。

あるきっかけとは何だったのですか?

大人向けにボイストレーニング教室を主催していたある日、6歳のお子さんを習わせたいという親御さんからご連絡がありました。最初は、「親御さんが習わせたいだけなのでは…」との疑念もあったのですが、子どもが必死に歌う姿、その情熱に触れることで歌声から夢が伝わってきました。そして彼女の目標であったミュージカルのオーディションに合格するまでの道のりを支えることができました。その経験によって、お子さんたちの夢を親御さんと共にサポートすることが、私にとって大きなやりがいであり、喜びなのだと気づきました。

ありがとうございます。今回、第1回全日本こどもの歌コンクール全国大会では、見事、多くの先生の生徒さん(独唱部門 小学4・5・6年生の部 グランプリ・金賞・ベヒシュタイン賞・清水佳愛さん、奨励賞・セーベルガー杏珠さん、重唱・合唱部門 協会特別賞・Shiny☆Tomorrowさん)がご受賞されました。先生の生徒さんはみなさん、とても力強い声で、深い支えと響きを持っていらっしゃるのが印象的でしたが、先生のレッスンでの取り組みについて、具体的に教えてください。

力強い声と言っても、地声では絶対に歌えません。地声のように聞こえる、いわゆるミックスであったりベルティングであったりの発声法を意識してレッスンをしています。また、例えばリフティングやドリブルを習得しないとサッカーってできないように、何においても基本が大切だと思います。だからまずは音符を読むこと、音程や音感を養うためにソルフェージュやリズム練習など、地道なトレーニングにも取り組んでいます。

発声において大切なのは呼吸です。私のレッスンでは、腹式呼吸・ドッグブレスの呼吸法から、リップロール・ハミングなどの基礎的なことを必ず取り入れています。
私が習った頃は、例えば「目からビーム」とか、「薔薇の香りを香るように」とか、「頭のてっぺんから」などの感覚的な指導が多かったのですが、私自身そのような表現があまりピンときませんでした。そこで、「ボイスアナトミー=声の解剖学」というものを学びました。これは解剖学的に声の仕組みを理解して、筋肉からのアプローチを学ぶものなのですが、私は目から鱗の感動を覚えました。「目からビーム」というのは、「上眼嶮挙筋を使うということ」など、ボイスアナトミーを勉強したことで、私自身歌うことに対する苦手意識を克服し、歌をより深く理解することができるようになりました。
実は、ボイストレーナーの道に進むことを決意したのは、この感動を誰かに伝えたいという気持ちからでした。小さいお子さんに、筋肉の名称を使って説明してもわからなかったりしますから、全てを説明するわけではないのですが、順を追って10回のベーシックプログラムというのを作っており、歌唱のレッスンに入る前に、みなさんにこれを受けてもらっています。これを受けることによって、どこの筋肉が何に(ファルセットやミックスボイス)作用しているのか繋がるので、自分が歌えない原因を見つけることができます。

先生のお教室では、その内容を動画で配信していらっしゃると思うのですが、動画レッスンを始めたきっかけや、動画レッスンの効果について教えてください。

もともとは、コロナ禍に、ゴスペルの大人の生徒さんへ、歌を忘れないでほしいという思いで作ったのがきっかけでした。その後、生徒さんからいただく悩みを解決するために、10分ほどにまとめた動画を配信するようになりました。
今、私のお教室では対面とオンラインのレッスンどちらも取り入れており、そのレッスンでは録画をして、必ずお家で復習するようにと言っています。でも30分・40分のレッスンを復習することってなかなかに大変ですよね。そんな時、配信した10分の動画が、復習にとても良かったとのお声をいただきました。もちろん全員がやっているわけではないのですが、対面レッスンを受けた後、お家で動画を使って復習する、この両方を取り組んでくれている子はものすごく成長します。10分という時間は効率がいいので続けやすいというのもありますね。

今回のコンクールで、見事受賞された先生の生徒さんでいらっしゃる清水佳愛さんやセーベルガー杏珠さんですが、英語の発音が大変素晴らしかったと記憶しております。英語の歌唱においてどのようにご指導されていらっしゃいますか?

そうですね。英語の発音についてですが、この2人に関してもネイティブのように喋れるわけではありません。ですから私がニューヨークに留学していた経験を活かして、発音の指導をしています。また、歌詞の意味についても、単語ひとつひとつを丁寧に調べるよう指導しています。意味を調べてないと、感情が込められないですからね。

先生がレッスンで大切にしていらっしゃることはなんですか?

そうですね。一番大切にしていることは、音楽は「楽しい」ということが軸にあるので、音楽が嫌いになってしまうことがないようにということです。お子さんは、それぞれの成長過程によっても、上達のスピードは様々です。早い子もいれば時間がかかる子もいます。ですから、お子さんのレベルによって言葉を選び、伝える内容も考えています。

先生のお教室では、たくさんの生徒さんが、様々なコンクール・オーディションを受けられ素晴らしい結果を残されていらっしゃいます。しかし、コンクールという場では良くも悪くも順位がついてしまいますし、オーディションでは合否が出てしまいます。お子さんもご家族様も、一つになって様々な困難を乗り越えながら挑戦されていらっしゃると思うのですが、例えばメンタル面のケアはどのようにされていらっしゃいますか?

そうですね。私も2人の子どもを持つ親なので、親御さんのお気持ちはとてもよくわかります。しかし、お子さんたちって、とても立派で大人っぽくても、たった数年しか経験していない子どもなんです。だから何気ない言葉に傷ついてしまったり、とても繊細です。ですから親御さんには、思うような結果が得られなかった時、お子さんと一緒に悲しまないでください、一番傷ついているのはお子さんですと伝えています。
お子さんたちは、「落ちる」という一つで、自分の全てを否定されているように感じてしまうことがあります。コンクールやオーディションで結果が振るわなかったのは、「たまたま」です。あなた自身はとっても最高で、たまたま今回はご縁がなかっただけなのだと伝えています。

コンクールやオーディションに挑戦する意義はどのようにお考えでいらっしゃいますか?

「1回の本番は、10回の練習に勝る」これに限ります。本番に向けて練習する、その過程での成長はものすごいです。また、本番で思うように歌えない経験など、それも含めて学ぶことがたくさんあるのが本番だと思います。うまくいかない経験もメンタル面を成長させてくれますね。本番の空気感や、本番でステージに立った際に自分がどうなってしまうのかも、本番は本番でしか経験できない、唯一のものだと思っています。

本当にそうですね。順位や合否はその時の結果であって、これからの未来はまだ何もわからないですよね。

そうなんです。コンクールやオーディションで思うような結果が得られなくても、別のところからご縁をいただいたりすることもあります。一つの経験が、どんなことに繋がるかはわかりません。そういった側面を含めて、コンクールやオーディションを受けることには意味があると思います。

コンクールでは、選曲も一つ、大切な要素になってくるのかなと思うのですが、どのように選曲をされていらっしゃいますか?

まず、歌える曲を選ぶことが大切です。もし、歌いたい曲がある場合、コンクールまでの期間を考えて、その曲を仕上げるためにどんなことが必要かを伝えます。それを伝えた上で、それでも歌いたい曲を選択するのならば、私は絶対に否定しません。お子さんの場合、やはり楽しむことが大切なので、ちょっと背伸びした曲にチャレンジすることも良いことかなと思っています。本人にその覚悟があれば、私はとことん付き合います。

このように同じ足取りで一緒に進んでくれる先生の存在は、きっと生徒さんにとってとても心強いですね。先生と生徒さんの強い絆が目に見えるようです。

小学校高学年になってくると、皆さん悩まれるのが変声期だと思います。変声期というのは人それぞれ違いますし、とてもデリケートな問題であると思いますが、先生は変声期のお子さんたちとどのように向き合われていらっしゃいますか?

変声期かどうか微妙な年齢で、声が掠れる、鼻腔共鳴ができないという場合は、病院に行ってもらいます。その結果、副鼻腔炎だったり、結節があったりと何か問題が発見される場合があります。声を出すのが辛いのに無理をして出すのは苦しいので、将来のためにも自分のことをわかっておくことは大切です。
実際に変声期が始まると、特に男の子の場合は長いので、上手にやっていかないと、潰してしまう可能性があります。マンツーマンレッスンの良さとして、どう辛いのかなど、その時々の状況を細かく聞いて、どのような方向からアプローチをするのか考えることができます。
とにかく楽に、どの音域でも音色が変わらずに歌えるようにすることが大切です。そのように歌えるようになるまでに、ものすごい時間がかかるお子さんもいます。でも諦めずに練習を続ければ必ず変わります。

筋トレみたいですね。(笑)

本当に!同じです。筋肉は裏切らないよ、といつもみんなに言っています。

東海林先生が、お子さんたちにご指導する上で大切にしていることはなんですか?

そうですね。まずは、褒めることです。そして、子どもの自己肯定感を高められるようにしたいと思っています。例えば、「上手だね」と言われて、「そんなことないです」と返す子がいますが、褒めていただいたら「ありがとうございます」と言おうねと伝えています。私のレッスンでは、一緒に「自分最高」と何度も言葉にするんです。自分を認めて、人からいただいた意見をプラスに捉えられるようになってほしいと思っています。

コンクールやオーディション対策のレッスンで、歌唱以外の部分で大切にご指導されていることはありますか?

オーディションやコンクールでは言葉遣いなど、歌以外のところも見られていますから、礼儀についてはしっかりと指導しています。例えば、レッスン中にお水を飲む一場面でも、「ママお茶!」ではなく、「お茶ください」と言いましょうと伝えています。靴の脱ぎ履きや、上着のかけかたなども同様です。コンクールやオーディションでは、その場を作ってくださっているスタッフさんなど、たくさんの方々の力が合わさってその場があること、その方々に迷惑をかけることがあってはなりません。
また、私たちは身体が楽器なので、前日の食べ物や飲み物なども徹底しています。当日は、とにかく身体を冷やさないように、ホッカイロや上着をたくさん持っていってもらいます。それでも心配で、私もたくさん持っていってしまうのですが(笑)。

最後に東海林先生の思う、「歌の魅力」を教えてください。

誰かの歌をきいて、涙が自然と溢れてしまったという経験はありませんか?私は何度もあります。言葉に気持ちを込めて、それが相手に伝わった時、歌の技術だけでなく人に伝わるものがあります。
「音楽」って、音を楽しむと書きますよね。だから、たとえ悲しい気持ちを表現するとしても、それを含めて楽しいものだと思います。

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