一般社団法人全日本こどもの歌教育協会 編集部
取材・文:浅見聖怜奈

最優秀指導者賞インタビュー | コラム&インタビュー
宮川 有美

宮川有美先生は、本協会主催の「第2回全日本こどもの歌コンクール」独唱部門 幼児の部にて『最優秀指導者賞』をご受賞されました。
常に生徒さんに寄り添い、一緒に歩まれていらっしゃる先生のお話は、歌に対する愛に溢れていました。先生のこれまでのご経験やご指導される際に大切にされていらっしゃることについて具体的にお伺いさせていただきました。

宮川有美(みやがわゆみ)

国立音楽大学声楽学科卒業。
二期会オペラスタジオ第43期修了。
在籍中、数多くのコンクールにおいて新人賞、各賞を受賞。
須坂市メセナホールにてリサイタルを開催。
これまでに「コジ・ファン・トゥッテ」フィオルデリージ、「愛の妙薬」アディーナ、「オルフェオとエウリディーチェ」アモーレ、「泥棒とオールドミス」レティーシャ、「フィガロの結婚」スザンナ、「メリー・ウィドー」ヴァランシェンヌ、「蝶々夫人」ケート、「シンデレラ」ドリゼア、「こうもり」アデーレ役等に出演。  
近年では、千曲市生誕20周年記念事業 オペラ「笠地蔵」ばあさま役で出演し好評を得る。
映画「ララ、歌は流れる 中山晋平物語」では、松井須磨子役を演じ好評を得る。
BS朝日「黒柳徹子のコドモノクニ~夢を描いた芸術家たち・中山晋平編」出演。
オペラ、ソロ、アンサンブル等幅広く活動を行うと共に、後進の指導にあたる。各種教室、カルチャーセンター講師。東京二期会会員。

先生のこれまでと現在のご活動について教えてください。

私は、音楽大学の声楽科・オペラ研修所で歌を学びました。その後、現在まで、様々なオペラやコンサートに出演させていただきながら、長野県内で主宰しております音楽教室やカルチャー講座等で、小さなお子さんから大人の方(幼稚園生〜80歳)まで、さまざまなジャンルのお歌を生徒さんと共に探求し勉強しております。

幅広い方々とどんなジャンルのお歌を勉強されていらっしゃるのですか?

クラシック・ミュージカル・ポップス・⼤⼈のコーラスや合唱・宝塚・劇団四季・⾳楽⼤学を⽬指す⽅など、それぞれのライフステージに寄り添いレッスンさせていただいております。また、アナウンサー・お坊さん・牧師先生等、声を使うお仕事の方のサポートや、咽頭の持病、声にコンプレックスを抱えている方のトレーナーもさせて頂いています。

アナウンサーにお坊さん!貴重なお話、ありがとうございます。
宮川先生は、現在も演奏活動を積極的におこなっていらっしゃいますが、先生がご指導される際に大切にされていらっしゃることはなんですか?

常に私⾃⾝も研鑽を積むことを⼤切にしています。私にもまだ課題がありますので、⽣徒さんにアドバイスをさせてもらうからには、私もずっと勉強し続けるべきだと思っています。
そして、その知識、経験を最⼤限に⽣徒さんに提⽰できるようにといつも⼼がけています。
レッスンをする際に⼤切にしていることは、1回のレッスンでどれだけ理解を深め、満⾜してもらうか、ということです。これは、私が⼤学時代にお世話になった教授の先⽣の教えに基づいているのですが、その先⽣は、ご指導はもちろんのこと、先生の愛情に溢れた人間性に、いつも見守られながら歌を学ぶ事が出来、声楽を通して先生にご教示いただいた全ての事が今現在も自身の歌を歌う上でのお手本となっています。
レッスンに来ていただいたからにはその都度しっかりと内容を理解し、学びを得てもらいたいと思っています。モヤモヤを抱えたまま帰って欲しくないという想いがあり、レッスン時間はもちろん決まっているのですが、時間ではなく、内容を重視しています。

先ほど伺ったように、宮川先生は様々なジャンルの生徒さんをご指導されていらっしゃいますが、ジャンルごとにどのような工夫をされていらっしゃいますか?

そうですね。先ず⽣徒さんと、とにかく真正⾯から向き合うことだと思います。
⽣徒さんの気持ちを聞き、それぞれの⽬指す⽬標に合わせ、指導者が生徒さんと同じ歩幅で進んでいく事が大切だと思います。
私はどのジャンルの歌でも、子どもから大人まで年齢を問わず、基本はクラシックの発声を軸にしています。クラシックの発声のその先に、カメラのピント合わせの様に、各ジャンルに合った細かい調整をさせていただいています。
なぜなら、どの曲でも、声を安定させるためには、支え、呼吸を基本とし、ジャンルによって響きの角度や振り幅の調整が何より重要だと私は思います。

ありがとうございます。
ジャンルを超え、一人一人に寄り添いご指導されていらっしゃる先生ですが、特に子どもたちに対して、歌を通してどんなことを学んでほしいと考えていらっしゃいますか?

はい。歌を通して、歌詞ではたくさんの言葉を覚え、表現力を培い、メロディでは心の感受性を豊かに、そして、時代が移り変わっていっても、人の気持ちが分かる優しい子に育って欲しいと思います。また、その延長上に学校内外の行事での活躍や、ステージの舞台に⽴つ等の経験は、子どもたちにとって大きな自信につながり、その子の持っている可能性や視野を広げていく学びが歌の力にあると思います。

子どもって不思議で、子どもが歌うと楽譜には書いていない⾳やその⼦にしかできない表現が⾃然と出てくるように感じます。例えば恋や愛の歌となると、⼤⼈の私たちからするとどうしてもそこに気持ちを持っていかなければと考えてしまいがちですが、子どもは、愛は赤やピンク色、ワクワク、ドキドキする等、すでに無限の表現力をたくさん持っているんですよね。喜怒哀楽を何か無理に作り出さなくても、すでに備わっている純粋な心があるんです。指導者として⼦どもたちと関わらせていただく中で、それをとても実感しています。
その⼦の中にあるものを上手く引き出して、その⼦の想いが聴いている⽅にストレートに伝わったらとても素敵だなと思います。

今回、第2回全日本こどもの歌コンクール 独唱部門 幼児の部にて、グランプリ・金賞、ベヒシュタイン賞、また審査員長賞をご受賞された中村継美さんの歌は、まさに内から溢れるあたたかい表現が印象的でした。

ありがとうございます。今回、継美ちゃんが選曲した曲は、彼⼥がとても⼤好きな曲で、当初、「パフ」はちょっとまだ難しいのかなと思ったこともありましたが、彼⼥の気持ちを⼤切に⼀緒にレッスンを頑張ろうと決めて、継美ちゃん、お⺟様、ピアノの先⽣とみんなでコンクールに向けて準備を進めました。

決して1位・グランプリを取りたいからということではなく、チーム一丸となって取り組んだその先に、グランプリが叶ったという感じですね。

今お話がありましたが、コンクールにおける選曲についてはどのように取り組まれていらっしゃいますか?

その子の年齢にあった選曲を⼼がけています。しかし、それ以上に歌う本⼈のパーソナルな部分や、その曲を通して何を伝えたいかという部分を⼤切にしています。
先ずは、⾳程やリズムなど楽譜通りに⾳楽を作り、次にその⼦の持っているイメージ、気持ちを曲に重ねていきます。その行程を繰り返す事で、楽譜には書かれていない、誰にも真似できない唯一無二の一点物の作品を仕上げる様に、より丁寧に曲が仕上がっていきます。

今回、第2回全日本こどもの歌コンクールでは、本協会初の試みである「完全オンライン」での審査となりました。もちろん音楽はホールが良いに越したことはないというご意見があって当然ですが、私たちはオンラインにはオンラインの良さがあると思っております。今回オンラインのコンクールに挑戦してくださいましたが、オンラインでのコンクールについてどのようにお考えでしょうか?

そうですね。特に私たちのように地⽅に住んでいる場合、オンラインでの環境で審査をしていただける機会は有り難い限りです。⼩さなお⼦さんの場合、どうしても気分の浮き沈みや、集中⼒が続かなかったりということがありますよね。もちろん1回のステージに向けての本番力も大事な事ですが、幼児さんですとどうしても、その子の完璧なコンディションで、最高の声を届けるには、かなりハードルが⾼いように思います。その点、オンラインであれば撮り直しができますし、コンディションが整わない時は休憩しても良いですし、とてもチャレンジしやすいと感じました。

YouTubeで全編聴かせていただきましたが、オンラインでも聴いた瞬間に、涙が出てくる、鳥肌が立つ様な美声の大変素晴らしい演奏がありました。
オンラインでも、こんなにストレートに歌を届けることができるんだ、という感動とこれからの歌への可能性、未来への一歩を垣間見れた様に感じました。

今回、継美さんは曲に合わせてお衣装や場所も工夫されていらっしゃいましたよね、特に実際に「雪が降っている」という背景は、とても素敵で、オンラインならではと感じました。

そうなんです。大自然が美しいこの信州で「頑張っているよ!」というメッセージを合わせて発信できたら、という継美ちゃんとお母様の想いもあり、2曲目の「ふわふわ・るらら」の曲にちなんで、雪景色の見える場所で撮影をしました。でも実は、⻑野でもいつも雪が降っているわけではないんですよ。特に今年はあまり降らない年でもありまして…。
あの⽇は「さあ、歌おう!」とした時、不思議な事にチラチラと雪が降ってきてくれて、本当に奇跡のようなタイミングでした。

継美さん含めたチームの力が天気までも味方につけられたのですね。
しかし、コンクールは良くも悪くも順位が出てしまうものです。一生懸命に取り組んでいるからこそ、結果が伴わなかった際には落ち込んでしまうこともあると思いますが、それでもコンクールに挑戦する意義について、どのようにお考えでいらっしゃいますか?

そうですね。⽣徒さんと⼀緒に同じ⽬標に向かって頑張っていますし、私も本気で向き合っているからこそ、思うような結果が得られない時、⽣徒さんの涙を⾒ると私も⼀緒に涙してしまうことがあります。すぐ次に向けて「気持ちを切り替える」なんて⼤⼈でも難しいですよね。ですから、励ますことよりも先ず、生徒さんと⼀緒に悲しみや悔しさを共有する事を大切にしています。そして、私はどんな結果であっても、経験した事は必ず次に⽣きると思っています。歌に限らず、どんな世界でも成功体験だけではうまくいかないと思うんですね。
失敗の経験で感じる悔しい気持ちや⾟い気持ちが、きっと次のステップにつながっていくはずです。コンクールに挑戦することで、⾃分の強みや逆に弱さも知ることができますし、その経験こそが、その⼦の成⻑において必ずプラスになると信じています。
もちろん、芽がでるタイミングには個人差がありますので、焦らずにその⼦のペースで進めていくことも同時に⼤切だと考えています。

ありがとうございます。
宮川先生の思う、「歌の魅力」を教えてください。

歌⼼だと思います。
少々大袈裟かもしれませんが、歌はその人の歩いてきた⼈⽣そのものの様に思います。
たった6歳であっても、大人でも年数ではなくそれは同じであると思います。
身体がまさに楽器なので、声がそのまま⼼の鏡と繋がっているんですよね。

そんな歌心を育てるために必要なことは何であると考えますか?

そうですね。感受性や⼈間⼒を⾼めることだと思います。
歌の技術を勉強するだけでは、どこかで偏りが生じる気がします。
感受性を豊かにするために例えば⾃然やお花やアート等、⽇々の⽣活の中で様々な事柄に触れ、人との出会いを大切に、思い立ったら即行動してみる事が⼤切だと思います。
また、歌は⼈を救うものでもあると思います。
過去の⾟い時期に、その時流れていた曲に助けられたり、家族や友達との思い出の曲があったり、皆さんにもきっとそれぞれに大切な曲があるのではないでしょうか。
大人になって出会った曲に、忘れかけていた大切な何かを気付かされる事もあるでしょう。
⾳楽の持つ⼒に私たちは度々救われているんですよね。
歌を歌う際、⾳程やリズムはもちろん大事ですが、それを超えたもっと⼤きなところに気持ちを持っていくことが何より大切だと思います。そして、歌を心から楽しむことも大切ですね。
私たちはそのように楽しませてもらっていることに、歌に、日々感謝しなければなりませんね。

歌に感謝、本当に先生のおっしゃる通りですね。私たちは歌を学びながら、同時に歌から大切なことを学ばせていただいているのですね。

そうですね。近年の競争社会の中で、⾳楽の世界であれば、時にオーディションやコンクールで競い合わなければならない時もあります。それでもやっぱり、どんなシチュエーションであっても常に優しさや思いやりの心を持ち、そして謙虚さを忘れずにいることも⼤切な姿勢であると思います。私も⼀⼈の歌い手として、その⼼がけを常に忘れずにいたいと思います。
こうやって皆さんと勉強させていただいていると、私⾃⾝も生徒さんから教えてもらうことがたくさんあります。今回、このような賞をいただけたこと、私にとりましても大変に感慨深く、重ねて感謝申し上げます。ありがとうございました。

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