一般社団法人全日本こどもの歌教育協会 編集部
取材・文:浅見聖怜奈

童謡歌手 | コラム&インタビュー
古瀬 ゆうき

童謡歌手として、日本の素晴らしい文化として受け継がれている「童謡」や「唱歌」を、歌い広める活動をされている古瀬さん。
日本語の詩の歌を、どのように歌い表現したら良いだろうか、と日々言葉と音と向き合い続ける古瀬さんからは、歌への熱い思いを感じました。
今回は、そんな古瀬さんの音楽のルーツや、現在の活動について詳しくお話をお伺いしました。

古瀬ゆうき(ふるせ ゆうき)

富山県出身。和歌山大学教育学部学校教育教員養成課程音楽専攻を経て、国立音楽大学音楽学部演奏学科声楽専修卒業。在学中、国内外研修給費奨学生としてニース国際音楽アカデミーに参加し、ダルトン・ボールドウィン氏に師事。ディプロムを取得。歌劇『フィガロの結婚』バジーリオ役、平成25年度富山県新人演奏会、ミューザ川崎若手演奏家応援事業ミニコンサート出演。
近年では、「0歳からの音楽会」・「マタニティ&0歳からのコンサート」等に、歌のお兄さんとして出演し童謡歌手として活動している。第31回寛仁親王牌童謡子どもの歌コンクールグランプリ大会ファイナリスト。2018年童謡アルバム「ぼくのジャングルポケット」をリリース。第1回松戸童謡作詞・作曲コンクール大人部門優秀賞。東京こども専門学校講師。童謡の歌唱法を土屋朱帆氏に師事。

古瀬さんの音楽・歌との出会いを教えてください。

小さい頃は、なぜかお家の廊下やトイレやお風呂など、どこでも歌っている子どもで、保育園でも「歌が好きな子」というイメージがついているほどでした。
それから小学校1年生の頃に自分からピアノを習いたいと言って、習い始めたのが最初です。
歌は、地元の通っていた小学校の合唱クラブに入り本格的に始めました。この合唱クラブは県代表に選ばれるくらい強くて、ここで音楽の基礎など鍛えていただきました。

後に、音楽大学へと進まれるわけですが、音楽の道に進みたいというのはいつ頃から思っていたのですか?

小学校低学年の頃から、なぜか漠然と音大に行きたいなと思っていましたね。音楽の大学があって、すごいところらしいぞ、みたいな(笑)。

なるほど。合唱を通して歌に出会い、こどもの頃から音大への憧れをもっていたのですね。
そんな古瀬さんですが、声楽を習い始めたのはいつ頃ですか?

そうですね。漠然と音楽の大学に進みたいみたいな気持ちがあったので、歌も本格的に習いたいなと思って、高校1年生の時に始めました。
でも、親には音大に進学するのを反対されてしまって…
国公立大学の教育学部への進学を目指すこととなりました。

そうだったのですね。そこから音大への道というのはどのようなものだったのですか?

高校卒業後、目指していた国公立大学の教育学部へと進学をしました。でもそこで出会った声楽の先生が自分の声を認めてくださって、レッスンを受けて練習をすればするほど、教員ではなく、きちんと歌の勉強をしてみたいという気持ちが強くなってしまって。君が本気なら東京の音大へ進学したらどうかと言ってくださった先生の後押しもあり、一度挑戦してみようと思い受験をし直しました。

その先生との出会いがなければ音大へと進んでいなかったのかもしれないのですね。そんな憧れの音大ライフはいかがでしたか?

大学に入ってからはオペラからイタリア語やドイツ語、フランス語の芸術歌曲まで幅広く勉強しました。とても楽しく好きだったのですが、立派な声で歌える同級生や先輩方を目の前に、どうしてもクラシックの声楽家という道で活躍できる自分の姿を想像することができなくて、自分の良さを一番活かせる道はなんだろうと考えた時に今の道に自然と進んでいました。

「童謡歌手」ですね。

はい。僕にとって歌の原点は合唱クラブで習った童謡で、ずっと大好きですし、やっぱり忘れていなくて、そういう歌をこどもたちに伝えていける人になれたらいいなと思い、童謡歌手や歌のお兄さんとしての活動へと進みました。
それまでは外国語の勉強に一生懸命取り組んでいましたが、日本語を美しく歌い伝えることに、とても奥深さと楽しさを感じて、母国語であるからこそ大切にしたいと思っています。

日本人であっても日本語を美しく歌うことは難しいですよね。

そうですね。もちろん歌ですから、無理のない発声で歌うということは外国語の歌と変わらないのですが、日本語を喋るように語るように伝えたいと、日々研究しています。

古瀬さんの考える「童謡」の素晴らしさを教えてください。

明治時代に学制の発布により唱歌が生まれました。大正時代に入ると、童謡運動が起き、子どもたちに本当に良い文学と良い音楽を届けようと、詩人と作曲家がタッグを組んで生まれたのが童謡です。それがもう100年以上も継がれてきている、本当に素晴らしい文化だと思います。僕は、そんな過去の偉人たちの足元にも及びませんが、その美しさを伝えていける一人になれたらいいなと思っています。

みんなが大好きなポップス音楽も、そういった文化の流れがあって生まれた訳ですもんね。
日本の素晴らしい文化を伝えようとしている古瀬さんは本当に貴重な存在だと思いますが、現在、童謡歌手としてはどのような活動をされているのですか?

ありがとうございます。
こどもたちへ向けた音楽会などで歌うことが多いです。現在、東京を中心に活動していますが、関西や地元富山にも呼んでいただいて歌っています。
ただ、このコロナ禍でこども向けの音楽会やコンサートも多くがキャンセルとなってしまいました。最近は、コロナがだいぶ落ち着いてきたので、そのような活動も精力的に行っていきたいと思います。

ぜひ、多くのこどもたちへ繋げてください。そんな童謡歌手・歌のお兄さんとしての活動でのやりがいを教えてください。

特に未就学のこどもたちは、音楽に素直に反応し、ファミリーコンサートでクイズをやっても、
感じたままにお話ししてくれます。
こどもたちは天使で、その素直さを前に、僕もワクワク感や、ピュアな気持ちを忘れないようにしていますし、そんなこどもたちの姿から、「やっぱり歌が好きだな」という自分の原点を思い出させてもらっています。

そんな古瀬さんですが、現在は、ご指導もされていらっしゃるのですよね?

はい。大学を出た後、最初は自分に教えられるのか不安もありましたが、音楽教室で働かせていただいた時期もあり、今はこどもから大人まで幅広い方々へ指導させていただいています。

教育学部出身ということもあり、人に何かを伝えることは好きです。
でも指導する機会をいただいてからは、自分はこんなことも分かっていなかったな、とかこれはどうやって伝えたらいいのかな、とか自身の感覚を言語化することにとても苦労しました。

古瀬さんが、ご指導される上で大切にされていらっしゃることは何ですか?

身体の使い方など、なるべく具体的に説明し、感覚だけに頼らないように伝えることです。ただ、理論だけでなく直感的に「美しいものを美しいと感じる心」も忘れないでほしいと思い、その部分も伝えるようにしています。それから、自分がこどもの頃の感情を思い返して、こどもたちのピュアな気持ちに寄り添うことです。

大人になると自分の感情に素直に向き合う機会は、少なくなってしまいますよね。

そうですね。でも、生まれた時って音楽嫌いなこどもはいないと思うんです。赤ちゃんって、お母さんの子守り唄や何か音楽が流れると表情が変わったり、反応を示しますよね。

この音楽いいな、美しいな、と思ったものを素直に美しいと表現していいと思うんです。大きくなればなるほど、今ここでこれを話していいのかな、など周りを気にしたりしてしまいますが、音楽の世界では、身体や言葉で自由に表現していいのだということを伝えられたらいいなと思っています。

素敵です。古瀬さんから歌が大好きなこどもたちへ、何か練習する時のアドバイスを教えてください。

まず、歌って、人間の根源的なエネルギーだと思うんです。だから、まずは歌いたいというその気持ちを大切にすることです。そして技術的なことを言えば、自分の演奏を録音したり録画してみることです。自分はこのように歌ったつもりでも、実際に録音を聴いてみると、「あれ、ここってこんなふうに聞こえてるんだ」、「綺麗だなと思ってたけど、なんか違うな」とか、何かしらの発見があるはずです。上達するためには客観的な目線も大切だと思います。

ありがとうございます。
古瀬さんの今後の、童謡歌手・歌のお兄さんとしての目標、指導者としての目標をそれぞれ聞かせてください。

アーティストとしては、聴いてくださる方の「心に光を届ける」ということを信念に、これからも言葉に向き合い、丁寧に紡いでいきたいと思っています。この「心に光を届ける」という言葉は、大学時代のドイツ語の先生が、僕の歌を聴いて「古瀬くんの歌は聴いている人の心に明るい光を届けてくれる歌だよね」と言ってくださった時の言葉で、ずっと僕の心に残っています。

僕が紡ぐ言葉、音楽で聴いてくださる方の心を動かすことができたら、それはアーティストとしての一番の醍醐味だと思っています。

指導者としての目標は、美しいものを追求するのに妥協はしたくないので、優しそうに見えて(?)技術的なことはかなり細かく指導します。やはり指導する以上、上手になってほしいと思うからです。でも以前、「今日はあんまり歌う気持ちになれない」と正直に話してくれたこどもがいました。大人もありますよね、なんか今日はやる気が起きないなって時(笑)。こどもだって人間だし、歌いたくないときだってあります。先生にこれを言ったら怒られちゃうかな、ではなく、今の自分の正直な気持ちを先生に話してもいいなと思ってもらえる指導者になること、そのような指導ができたらなと思っています。その気持ちを正直に伝えてくれた子には、歌を一生懸命頑張っているあなたも素敵だけど、いま正直に気持ちを伝えてくれたあなたももっと素敵だよと伝えました。

これは対照的なように思われるかもしれませんが、どちらも大切だと思うんです。ただ技術だけを磨いても聴き手に寄り添う歌は歌えないと思うからです。

古瀬さんの考える歌の魅力とは何ですか?

歌だけが、唯一言葉をのせてメロディを紡げることだと思います。
さらに母国語である日本語を扱うからこそ、聞いてくださる方も自分の体験や経験とリンクするような、心に響く歌を求めていると思うんです。

もちろん高度な技術や声量を求められる歌もあります。でも僕は、もちろんプロとしての音楽的なレベルを担保した上で、読んだ詩を自分の言葉で伝えられる歌手でありたいと思っています。

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